後編
私は昔から独りぼっちだった。誰かから求められることもなかったし、私が求めることもなかった。嫌われ者だった。別に何かしたとかそういうことはなくて勝手に嫌われていた。私は不幸な子ではなかった。それなのに何かが何時も足りていなかった。誰かを愛してみたかった。愛されても、みたかった。
そんな感情を表に出したくなかった。隠しておきたかった。堪えるために腕に爪を立て搔きむしった。5年たった今でも消えることはなかった。自分に傷をつければ感情を殺せるのだと思ってた。そんなわけなかった。本当は苦しかった。助けてほしかった。
医者から人型 AIを購入した。このAIなら私を助けてくれるかもしれない、そう強く思ったから。
彼が家に来た日、この日だけは本当に幸せを感じられた。久しぶりに誰かから笑顔を向けて貰えたから。それはとても暖かい笑顔だった。彼は常に合理的だった。だから話しやすかった。嫌われることもなかった。好かれることもなかった。彼に愛されてみたいと思った。でも彼に言うと困った顔をした。そんな機能はないからと、断られた。
誰も悪くないのにまた体に傷をつけた。痛みは嫌だったけれど血の味が好きになってた。自分の腕にかじりついてみた。ついに彼に止められた。
なんで自分が病んでいるのかわからなかった。病んでいることにも気が付かなかった。気が付いたら死にたくなってた。よくわからないけれど死にたかった。でもそんな勇気はないからまた体に傷つけた。そのたびに彼は抱きしめてくれた。
気が付けば拘束されるようになっていた。彼が私を見ていられないときにケガをさせないために。私が癇癪起こしてどんなに殴ってもそばにいて支えてくれた。彼は壊れても勝手に修理に行っていたようで、翌日になれは全部治ってた。
ある朝、彼は嬉しそうに私に話しかけてくれた。『恋愛プログラム』ができたって。これで私を愛せるようになるって、嬉しそうに、嬉しそうに。
実装されてから彼は私にさらに尽くし始めた。痛みも、苦しみも、悲しみも私が望めば与えてくれるようになった。これが幸せなのか、わからなくなった。
彼は私に合わせて常に行動してくれた。私が少し正気を取り戻せばその間は普通の人間のように接してくれた。私の好きなジャスミンティーを淹れながら、たわいのない話をした。私は彼にこの時間の中でいつも謝っていた。その度に抱きしめて優しくなでながら、洗脳していった。『あなたは何も悪くない。何も悪くない。すべて私のせい。すべての責任は私にある』。そんなわけないのに。私が悪いのに。
彼は優しかった。
おかしい女を優しく大切に支えてくれていた。かばってくれていた。敵役になっていた。私にわざと嫌われるように動いてくれた。なぜこんなことをしてくれるのか、そう正気に戻った時に聞いた。すると彼は初めて会ったときと変わらない笑顔で
『愛しているから』
そう、言った。
目の前で眠っている彼を見た。彼は充電中だから冷たくなっていた。それでも私にとっては彼はとても暖かかった。もう、十分。十分彼から生かしてもらえた。
小さく彼の起動音が聞こえた。ほわん、という電子音と共に彼の瞼がピクリと動いた。目と目が合うと彼は微笑み頭を撫でてくれた。それがうれしくて思わず抱きしめた。
ねぇ、ふゆくん
どうしましたか、ましろさん
ありがとうね
いえ、私の役目ですから
…ふゆくん
はい、なんでしょう
もういいよ
…なにがですか?
あなたなら言わなくてもわかるでしょ
わかりたくないです
…ごめんね
いやです
ごめんね
いやです
…
私に対して罪悪感があるからですか?
うーん…
何も気にしなくていいんですよ
んー…
私は役立たずでしたか?
…、泣かないでよ
すみません…
ごめんね
…それ、でも
ん…?
それでも、私はあなたのことを、
…。
愛している。
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