第118話 というお話だったのさ





「大義名分、今のところは無いですね」


 誰もが分かっていた回答が、シャラクトーンによって再確認された。


「まず、クロードラントが古来フィヨルト固有の領土、なんてのは誰も信じない」


 一番手っ取り早い理由が封殺された。さすがにここから名乗り出るのは幾らなんでも無理があった。


「次、ケットリンテ様にフィヨルト側から配偶者を差し出す。まあ、それも考えているんですよね?」


 ここにはいないファインの顔を、皆が思い出す。別に悪くないんじゃね?


「それは想定していますわ。ただ、あと5年程必要ですわね」


「それ以外に候補はいらしゃらないのでしょうか」


「靴屋の息子さんがいると言えば、いますわね」


「フォルテ様あぁぁ!!」


 これまで発言の無かった、宿屋の看板娘、アレッタが叫ぶ。


「無いわよアレッタ。例えですわ。だから、そう殺気を振り撒かないでくださいまし」


「ふぅふぅ」


「どうどう、アレッタ。フォルテはそういうことはしないから、落ち着いて」


 フミネが宥めにかかる。



「ならば適当な男性を、と言いたいところですが、それは猶予を以てという事で」


「ですわ。後は明確な要請という事になるのでしょうけど、時期尚早ですわね」



「つまりわたしの役割は、そういう状況を作り出す、ということですね。当然ケットリンテ様、ご協力はいただけますわよね」


「う、うん、もちろん。あとボクの事はケッテでいいよ?」


 ガンギマリ令嬢とビビる令嬢がそこにいた。



「当面は国力増強ですわ」


 それは皆の同意するところでもあった。先年のドルヴァ紛争によって失われた力を取り戻す、それはフィヨルトにとって喫緊の問題だったのだ。


「そして、それを底上げしますわ」


 第5世代騎、ニンジャ部隊、空挺装備。それらがフィヨルトには存在している。それを充実させ、未来に備える。


「とりあえず、1年ならば余裕は見込めますわ。それまでに、装備と人員を充実させますわ!」



 その後も、サウスポート村での生活についてフォルンとアーテンヴァーニュが紹介したり、甲殻猪の家畜化についても検討がなされたりした。


 そうして、悪役令嬢会議は終わった。



 ◇◇◇



「ではこれにて第7回悪役令嬢会議を終了いたしますわ」


 片腕を横に差し出したポーズで、フォルテが閉幕を宣言した。


「そ、それであの」


「なんですの、シャーラ?」


「さっきまでのは、何処まで本気なのですか?」


 おずおずとフォルテに質問をするシャーラ。やはり分かっていたかと、フォルテは満足げだ。


「勿論、全部本気ですわ。ですけど、全部参考意見でもありますわ」


 要はこれ、フォルテのための諮問会議というか、限りなく本気に近いごっご会議だ。フォルテという最高責任者は本物であるが、それ以外全てトップは参加していない。しかもこの会議の議事録は全ての国政卿と軍務関係者に配布されている。結構ビビられているらしいが。


「シャーラが来てくれたおかげで外務担当が出来たわ。助かりますわ」


「ですが、ライドの立場が」


「秘密結社『悪役令嬢の会』っていう名前ですもの、ライドの担当分はケットとフミネとわたくしで持ち回りですわ」


 男子禁制の秘密結社『悪役令嬢の会』。そこの準メンバーである、ファインの明日はどっちだ。



「じゃあ、フミネ。総評を」


「では、総合プロデューサーのわたしからお伝えいたしましょう」


「ぷろでゅーさー?」


「なんでも、役職が欲しいそうだったから、そうなったのですわ。意味はわたくしも分かりませんわ」


「はぁ」


「そこ、静かに」


 フォルテとシャラクトーンのひそひそ話はフミネに一蹴された。


「では、まず新規参加のシャーラからね。途中から気付いていたようで、そこはお見事。でもまだ固いから、70点ね」


「くっ」


 悔しそうなシャラクトーンであった、なんだかんだやる気はあるのだ。


「そこで、あなたにはこれを贈呈するわ」


「これは? 変わった形の扇ですね」


 白い羽を纏った扇であった


「羽毛扇って言って、わたしの世界にいた有名な謀略家が使っていたって逸話があるの」


「そ、そうなんですか」


 フミネから扇を受け取ったシャラクトーンは微妙な顔をしている。


「それをね、こうやって口元に翳して、フフフってやるだけで、なんも考えてなくっても、なにか深い策謀が渦巻いている感じになるのよ。やってみて」


「えっと、ふふふ」


「固い、固いなあ。もっと悪い顔をして、フフフどころか、グフフくらいまでやってもいいくらいだよ」


「れ、練習しておきます」


 真の謀略家とは、そう気づかれない方が良いはずなのだが、まあ、ロールプレイだから、それでいいのだ。



「シャラクトーン様、フミネ様より直々に文物を下賜されるなど、光栄なことです。お喜びください」


 そんなことをのたまって、ラースローラがこれ見よがしに槍を肩に乗せた。


「わたしもこの槍を賜り、一層、フィヨルトのフィンラントの一槍として働く所存です」


「ラーラさん80点。良い感じで上に忠誠を誓う女幹部って感じが出て来てる。あ、そうだ、今度強化甲殻腱を使った鞭なんかもいいかもね」


「おお、それは有難うございます。期待いたします」


「そういうことだから、スラーニュ企画書送るね」


「は、はいっ!」


「スラーニュ、60点。いい? 悪役令嬢でも科学者関係者は、もっと毒々しさが欲しいの。語尾にヒヒッってつけるとか、ぞんざいなため口とかが大事なの。ファイトンくんを落とした時のあの勢いは何処へ行ったの?」


「そ、そう言われても……ヒヒッ」


「そう、それ。最初は形からでもいいから」


 頑張れスラーニュ嬢。新婚さんに無理があるかもしれないが、シャラクトーンはちょっとホッとしていた。



「あと、ケッテは良いね! ボクっ娘悪役令嬢が板について来た感じがあるわ。虫も殺さないような顔から黒い作戦が生まれてくる落差が良いのよ!」


「やったあ、有難う!」


 素直に喜ぶケットリンテはかなり毒されていた。


「これは採点とは違うけど、アレッタには、向こうの遊びを教えるから、街で流行らせてみてくれないかな」


「どういうことです?」


「えっと、鬼ごっことか缶蹴りとか、そういう身体を動かす方向の遊び」


「小さい頃から鍛えるってことですか?」


「うん。だけど、楽しく、そしてイジめなんかにならないように、調整して欲しいかな。これはフォルンにもお願いできる?」


「わかりましたわ!」


 フォルンも元気に頷く。しかし、フミネは納得しない。


「ですわ口調も可愛くていいんだけど、なんかキャラ的になぁ。ねえ、フォルン、語尾に『のじゃ』って付けない?」


「の、のじゃですわ!?」


「ああ、それでもいいね、『のじゃですわ』系。結構イケるかも」



 かくもどす黒いフミネの魔の手は、令嬢たちに深刻な影響を与え始めていた。


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