第117話 第7回悪役令嬢会議
そして3か月後。ライドとシャラクトーンが卒業し、フィヨルトへと戻って来た。いや、シャラクトーンは初のフィヨルト入りである。
ついでに今年度の学院生は微妙に減らしておいた。フィヨルトに騎士学院が設立されたからだ。こちらは主に平民で素質のある者、男爵子息たちが通う事になる。物語特有の貴族がふんぞり返ることは、ほぼ無い。そもそも才能ある者たちの多くが『金の天秤団』の構成員であり、いじめなど最大級の禁忌である。
所在地はロンド村の第8騎士団駐屯地の一角である。この国の首都機能とは。いや、あれだ研究学園都市だ。筑波なのだ。ドルヴァ砦にあった研究施設も、こちらに移動してきて、ファイトンやその『奥方』もやってきている。甲殻技術の最先端。200年前にフォルフィナファーナが描いた未来がここにはあるのだ。
◇◇◇
「ここに、第7回悪役令嬢会議を開催いたしますわ!」
「えっと、その悪役令嬢、とは?」
シャラクトーンの疑問はもっともだ。フィヨルトにやって来たとたんに謎の名称を持つお茶会に誘われたのだ。動揺もさもあらん。
第8騎士団駐屯地にある、騎士団施設の一室で会議が秘密裏に行われる。
「フィヨルタじゃなくって、こういうところの方が秘密感あっていいでしょ。本当なら隠し部屋の向こうの地下室とかだと最高なんだけど」
「良い考えですわ。採用致しますわ」
フミネとフォルテが通じ合う。他の面々は意味が分からない者と、諦めている者に分別された。
さて、集まった面々を紹介しよう。フォルテ、フミネは言わずもがな、そこにフォルンとアーテンヴァーニュがロンド村からやってきた。ファインはビビって逃げた模様である。さらに当然のごとく座るケットリンテ、新規参入のシャラクトーン、そして裏メンバーとして、『金の渦巻き団』からアレッタ・ダーバイン、技術工廠からスラーニュ・シャール・タルタード=エディター、さらにはバラァトから呼び出された、第6騎士団長ラースローラ・ジェイン・シュッタート女子爵までもがいる。
一応、国務卿と軍務卿には知らせているが、国家転覆でも目指すのかと言う面々である。例によって軍務卿クーントルトは呼ばれていない。アーテンヴァーニュとのキャラ被りが痛い。
どいつもこいつも、一癖あるイカしたメンバーと言えよう。
「まずは新入りの紹介からですわ。ライドの婚約者で、ヴラトリア公国公女、シャラクトーン・フェン・ヴラトリネ。シャーラですわ」
「あ、えと、シャラクトーンです。シャーラとお呼び下さい」
生暖かい拍手が起きる。
「それで、すみません。悪役令嬢ってなんですか?」
繰り返されたシャラクトーンの疑問に対し、フォルテとケッテから怒涛の反撃が繰り出された。
曰く、悪役令嬢とは、強く、華麗で、美しく、それでいて高慢、冷徹、要は典型的に嫌らしい貴族令嬢っぽい。
「ですが、そこから先が違うのですわ」
さらに曰く、悪役令嬢とは、その心の内に決意を秘めて、悪として悪を為し、そのまま突き進んだ結果を善とする。意味が分からないだろう。分からない。結局はロールプレイなのだが、それで良いのだ。
「わ、分かりました。ような気がします。わたしも悪役令嬢になります」
「心意気や良しですわ」
これは半ば脅しではないだろうかという空気の中で、シャラクトーンもまた悪役令嬢となった。まあ、彼女は素質満々なのだが。
「では、唱和を!」
『悪を悪のままに我を通し、正義と為す! 全ては自らと人々のために!』
完全にシャラクトーンは置いてきぼりであった。
◇◇◇
「では、各自報告ですわ」
「じゃあ、わたしから。まず『学院』は動き出した。証は得られないけれど、騎士は育成出来ているね。本年度から、中央の驚く顔が見てみたいところね」
「10歳からでしたわね?」
「うん。どんどん育成するよ。だけど、前線には……」
「分かっていますわ、そのあたりの査定は、アーテンヴァーニュとスーシィアに任せますわ」
前軍務卿夫人スーシィアは、温厚な性格ながらも冷徹な判断を下すことの出来る人物だ。悪役っぽくないから呼ばれてはいないが、現軍務卿クーントルトと並んで、フォルテの信任は厚い。
「ラーラはどうですの?」
「はっ! フミネ様発案の『空挺』を使用することで、ターロンズ砦を短時間で堕とすことは可能かと存じます。また、飛空甲殻ニンジャ隊も50名を越えました。こちらも夜襲として、十分な活躍が期待できます」
武士系の第6騎士団長ラースローラが、さっくりと言い切った。
「スラーニュ」
「はいっ、フミネ様の発案により『88式甲殻飛空艇』は、ほぼ完成してますっ! ラースローラさんの言う通り、1艇につき3騎を空挺させることが可能です。現在2号艇の製作に取り組んでいます。完成までには1月いただきたく思います」
工廠担当悪役令嬢? スラーニュが叫ぶように言った。
『88式甲殻飛空艇』。甲殻騎を飛ばすことを諦めたフミネの苦肉の策である。気球とハンググライダーを合体させて、発熱スラスターと推進スラスターを別個に配置し、それぞれに要員を当てる。それにより、甲殻騎を空輸するというコンセプトだ。
「なんとなく納得いかないけど、仕方ないね。空を飛べるのはオゥラ=メトシェイラだけかあ。ヴァーニュあたりなら出来ない?」
「フミネ……、無茶振りは止めてくれ。そういうのは、クーントルト様に言って欲しいよ。でもさ、ニンジャ部隊と、オゥラ=メトシェイラで夜襲したら、一発で終わらないか?」
「否定できませんわ」
非現実的な会話のやりとりに、ケットリンテが目をギラギラさせ、シャラクトーンは全く付いていけていない。そりゃそうだ。
「さて、戦術はあっても戦略が無いですわ。本来は逆なんでしょうね。そこでシャーラですわ」
「な、何?」
「2年半以内に、クロードラントを併合する大義名分を考えて欲しいの。出来ますわよね?」
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