第102話 フミネが本領を発揮した結果




「帰ってきましたわ!」


「ついたー!」


「ここが、公都フィヨルタ」


「へぇ、綺麗な畑だねえ」


 順に、いやまあ、悪役令嬢たちのセリフである。一行はメンツを二人交換して、フィヨルトに戻って来たのだ。



「まずはお父様たちの葬儀と、わたくしが正式に大公になった事の告知ですわね」


「うん……、お葬式はちゃんとしないとね」


「ですがそれが終われば、前を向きますわ。フィヨルトを以前の様に、いえ、もっとずっと力強い国にして見せますわ」


 フォルテらしいなあと、フミネは思う。


「富国強兵だね」


「良い言葉ですわ。フィヨルトにぴったりですわ」


 フォルテとフミネは気合を入れた。ここでついでに天下布武とかフミネが言っていたら、後の歴史はどうなるのだろうか。彼女ならば、自らたどり着くかもしれない。どちらにしろ未来は不確定なのだ。



 ◇◇◇



 戦没者慰霊式典と大公就任式の日程と準備は、国務卿によりしっかりと定められていた。今回の式典は国民向けのものになる。ライドをもう一度呼び戻す必要がない様、そういう形となったのだ。学業優先。そこらへんは、しっかりと告知される。


「卒業の暁には、ライドには農務卿補佐と大公代理補佐、シャーラは外務卿補佐ですわ。ついでに第8騎士団兼任、もちろん平ですわ」


 多分、ライド夫妻となる二人は、それなりに苦労することになるであろう。


 ちなみに、ケットリンテは留学という名で、国務卿補佐と農務卿補佐、工廠研究員という事になっている。全部『臨時』が付いているわけで、結局は実地研修だ。


 アーテンヴァーニュとヒューレン・ビット君は、そのまま第8騎士団に編入されることになる。役職は無い。まあ近々、アーテンヴァーニュには適当に大型甲殻獣を狩らせて士爵にする予定だ。



 ◇◇◇



 そして本日、フミネの発案で、お茶会並びに結成式が行われることとなった。


「皆さんようこそ。本日はわたしの主催のお茶会です。フランク、あいや、ざっくばらんに行きましょう」


「本日はお招きいただき、有難うございます。楽しみにしていましたわ」


「フミネ姉様ありがとう」


「ありがとうございます、ですわ」


「ご機嫌よう。どういう集まりなの?」


「やあ、楽しみにしていたよ。何か面白い話なんだろ?」


 順にフォルテ、ファイン、フォルン、ケットリンテ、アーテンヴァーニュの挨拶だった。


「本当はもう一人、シャーラも誘いたかったけど、王都だしね」


 さらに言えば、軍務卿クーントルトも候補だったのだが、アーテンヴァーニュとキャラが被るので、今回は諦めたフミネであった。



 しばらく歓談が続いた後、フォルテが切り出した。


「それでフミネ、この会合の趣旨は何ですの?」


「よくぞ聞いてくれました」


「何故に敬語ですわ?」


「まあまあ、皆さん良く聞いてください。今後のわたしたちにとって、とても重要な会を設立したいと思って、集まって頂いた次第です」


 敬語を使うフミネはヤバい。フォルテとファイン、フォルンは身構えた。



「ここに、秘密結社『悪役令嬢の会』を設立いたします」


 断定だった。了承もへったくれもない。


「秘密結社? なんで秘密なんですの?」


「悪役令嬢の会!? ボクが悪役になるの?」


「楽しそうだね!!」


「わたくしも悪役令嬢になれるのですわっ!」


 一人だけ言葉を発しない登場人物がいるが、今は置いておく。


「そうです。わたしは『悪役聖女』、フォルテはそうね『悪役令嬢かつ悪役女大公』として、今後大暴れをすることが確定しています」


「そうですわ。それは決定事項ですわ。ですが」


「まあ落ち着いてください、フォルテ。まず結社とは共通の目的を持った者同士の継続的な集まりを差します。そしてその存在を秘匿し、その上で活動するのがすなわち『秘密結社』!」


「なぜ秘密?」


 フォルテに続き、ケットリンテも疑問を投げかけた。


「ケッテ、日本ではですね、多くの秘密結社があったのです。なぜ秘密なのかと言えば、その行動、思想に対して必ず対抗勢力が現れるのです。だから秘密にするのです!」


 フミネの必殺技、『日本では』が繰り出された。


「なるほどですわ」


 速攻で納得するフォルテ。ヤバい。


「てか、悪役令嬢って何?」


 アーテンヴァーニュはまだ分かっていない。


「ふぅ、バーニュはそこからですか」


 通販番組の様に肩をすくめ、ため息をつくフミネは一体何様なのだろうか。


「悪役令嬢とはですね……」



 そこからは長かった。以前フォルテを悪役令嬢の道に誘い込んだ、フミネの弁舌が冴えわたる。悪役令嬢が如何に格好良く、如何に力強く、そして美しいかを滔々と論述してみせた。


「ああ、わたしは悪役令嬢になるよ!」


 かなり初期の段階でアーテンヴァーニュは堕ちた。


「格好良いかも、ボクもなりたい、かも」


 倍の時間をかけて、ケットリンテもまた懐柔された。



 対象はあと一人。そう、彼の名はファインヴェルヴィルト・ファイダ・フィンラント。通称ファイン。男の子であった。


「あの、僕、男なんだけど……」


 以前、悪役令息になりたかった彼は、ちょっと引いていた。なんか危険な予感を感じていたのだ。


「皆さん見てください。彼を! あの、もじもじとした態度。お姉さんたちに囲まれてどうしようか困ってしまっている、ちょっと思春期な感じ! イケるとは思いませんか? 思う方は挙手を」


 誰も手を上げなかった。あれ?


「貴女方には、まだ早かったようですね」


「……あの、ボクは良いと思う、かな」


 栗色のショートカットで、メガネの下に青い瞳を宿す彼女がおずおずと手を挙げた。ケットリンテが来た。


「えっと、いいの?」


 ちょっとだけ頬を赤く染め、ファインが上目遣いでケットリンテを見上げる。ワザとじゃないから質が悪い。


「っ! いいよ。もちろんいいよ。ボクの事はケッテって呼んでね」


「うん、ケッテお姉さん」


 ファインの明るい返事に、ケットリンテがプルプルと震えた。何かが目覚めようとしている。それに対し、メラメラと瞳に熱い炎を燃やすのは双子の片割れ、フォルンである。熱く、冷静にケットリンテを見定めようとしていた。



 という茶番を通して、秘密結社『悪役令嬢の会』が結成された。


「悪を悪のままに我を通し、正義と為す! 全ては自らと人々のために!!」


 悪を知らずして正義を執行できるか!? 自身を満足させずに、他者に安寧を齎すことが出来るか!?



 こうして、公然と悪役令嬢たちは動き始める。


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