第72話 第8騎士団設立





「さらなる甲殻獣の脅威に備え、また、海を目指しフィヨルト南方への拡大を目的とし、この度、新たな騎士団を設立する事とした。名称は勿論、第8騎士団となる」


 ヴォルト=フィヨルタ前門で、大公が演説を行っていた。


「騎士団長はフォルフィズフィーナ・ファルナ・フィンラント。副団長として、フミネ・フサフキ・ファノト・フィンラント、並びにクーントルト=フサフキ・ジェイン・トルネリアとするものである!」



 おおおおお! って、おぉぉ!?



 住民の驚きももっともである。フォルテがフミネを得たことは良く知られているし、王都で証を得て来た事も周知の事実だ。それを理由に新たな騎士団を追加するのも分かる。だがだ。何故そこに『第1騎士団長』がいる?


「過保護にも過ぎるのだが、何と言うか当人の希望でな。目付けだと思ってもらえると助かる」


「すっかり二人に惚れこんじゃってね。閣下に要望したってわけだ」


 悪びれも無く、クーントルトが皆の前で胸を張った。


「ああ、第1騎士団はフィート=フサフキが男爵になって引き継ぐ事になったんで、そっちもよろしくね」


 よろしくもなにも、フィート=フサフキは元平民である。しかも第1騎士団と言えば、古くの近衛に該当する大公家の懐刀だ。


「なにも問題はない。私は彼を信頼しているし、その責務を果たす事を確信しているが故の人事である」


 大公のこの台詞、中央ならば絶対に認められるものではなかっただろう。武と実力を重んずる辺境だから許される事だった。当のフィートは顔を土気色にしていたが。



 ◇◇◇



 先の極秘試験の後、大公国中枢部は幾つかの決断を下した。



 ひとつ、せっかくフォルテが騎士となれたのだから、それに相応しく騎士団を創設すること。すなわち第8騎士団だ。ただ、その構成員選定がもめにもめた。第1から第7まで、全ての騎士団長と副団長が手を挙げたのだ。どういうことなの?


「君たち、落ち着いて聞いてもらいたい。第8騎士団はフォルテとフミネの、謂わば我儘で設立されるわけだよ」


「我儘ではありませんわ!」


「いいからフォルテはちょっと静かにしていてくれ。フミネ、頼めるかい」


「分かりました。いい? フォルテ、第8騎士団は要は隠れ蓑なの」


「分かっていますわ。諭されるように言われるのが、気に障っただけですわ!」


「フォルテは難しいねぇ」


 何が楽しいのか、フミネはそんなフォルテを柔らかい笑顔で見ていた。



 さて、第8騎士団が創設されるのは問題ない。だが前述したとおり問題は大有りで、そのメンバーをどうするよと言うのでもめた。


「わたしは入るよ。駄目と言うなら騎士団辞めるからね」


「トルネリア卿……」


 軍務卿がため息をつくのも当たり前だ。何故に現役の第1騎士団長が名乗りを上げるか。


「それならば私も!」


「いえ、私も」


「いや、だから……。お前ら大概にしろ!!」


 ついには軍務卿がブチ切れた。


「お嬢様、フミネ様、方針をお願いいたします!」


 軍務卿たってのお願いであった。


「条件はただ一つ。わたくしたちに付いてこれる事だけですわ!」


「そ、それはまた」


「要はスラスターをある程度使いこなせる素養があって、やる気があって、っていう精鋭騎士団を作りたいってフォルテは言っているわけです」


「通訳、ありがとうございます。流石はフミネ様です」


「フミネとわたくしの意思疎通は完璧なのですわ」


「大公閣下、お言葉を」


 頭痛を堪える様にして、軍務卿が大公に懇願した。


「ふむ、そうだね。団長からはクーントルト。副団長からは話し合いで2名。勿論、片翼を引き連れてだ」


 これでオゥラくんを併せて4騎。


「それと第1から第7から1騎づつ。これで11騎だ。増強中隊規模だな。よいな」


「はっ!」


 大公からの指示だ。流石にこれ以上の文句は言えまい。


「随伴歩兵、工廠関係者、その他担当官はこちらから指名する。予定では80名程度になるだろう。採用基準は、分かるな?」


 軍務卿が言い切った。もうこれ以上は聞きたくもないという意志が、ありありと見える。



「担当区域はバラァトの南側。大河の下流域西岸にあるロンド村を駐屯地とする」


 書類を見ながら軍務卿が説明を続ける。この辺りではもう、文句は出ない。


「先も言った通り隠れ蓑だ。建前は大河の南部開拓並びに甲殻獣素材の採取。だが、実際にやってもらいたい」


「了解ですわ!」


「了解です」


 そう、第8騎士団はフィヨルタに置かれない。甲殻騎の搬送については大河がメインで、補給路は極秘裏に主街道の南側を通す形で新設する。


 要はテストがてら、暴れてこいということだ。言われなくてもフォルテとフミネはやるだろう。そこのクーントルトが加われば、やりすぎる可能性すらある。だからこその未開拓地が選定されたのだ。



 ◇◇◇



 そしてもうひとつの決定事項は、技術研究所についてであった。こちらは、西部トルヴァ砦内に移動されることになった。技術班4名を筆頭に、30名程を予定している。


「それで、お嬢たちの新型騎を造るわけだね」


 工廠長パッカーニャが確認する。そう、スラスター研究が纏まったので、いよいよ『白金』ベースの新型騎の建造が決定された。これまで待ったのは、これが理由だったのだ。


「色々と注文を出してしまいましたけど、よろしくお願いします」


「あぁ、任せといてくれ。楽しいことになりそうだよ」


 悪い笑みを交わしあうフミネとパッカーニャ。一体どんなのが出来てしまうのか、周りは戦々恐々である。


「お嬢方の基本設計と、フミネの詳細な条件。全部実現してやるさ。腕が鳴るってもんだ」



 要は、研究と建造は西、騎士団は南東に分散し、公都フィヨルタから離すことにしたわけだ。



 ◇◇◇



 この数か月後、フィヨルトに動乱の時代が訪れることとなる。


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