第58話 必要なんだから仕方ない




「へえ、これが例の赤熊ベースの騎体なんだ」


「べぇす?」


「ああ、基礎にして、って意味くらいだよ」


「なるほどですわ。一応、訓練用大型甲殻騎ということで建造中ですわ。実際はファインとフォルンの専用騎になる予定ですわね」


「姉が弟と妹にする贈り物がコレっていうのは、なんとも剛毅でいいね」


「さすが、フミネは分かっていますわ!」


 ヴォルト=フィヨルタ内にある、甲殻騎組み立て施設での二人の会話だ。



「で、わたしたちはどうするか、なのかな」


「そうですわね。オゥラくんの核石は充分な大きさですから、後は大型の甲殻が必要ですわ」


「手ごろなのっていったら増長かもだけど、できれば凄いのが欲しいよね」


「ですわ。フミネのその顔、何か企みがありそうですわ」


「うん!」


 胡散臭い、それでいてフォルテが大好きな笑顔でフミネが言い切る。


「わたしとフォルテにしか使えない専用騎! カリカリでピーキーな調整にして、もっともっと芳蕗を再現出来るような、試験騎体!!」


「かりかりとぴぃきぃが良く分かりませんけど、なんとなく分かりますわ!」


「二人だけの二人だけしか使えない、だけど最強の甲殻騎だよ。どう、格好良くない!?」


「た、確かに、格好良いですわ!」


「専用騎にして試験騎体!! これはもう主人公だわ!」


「主人公っ! わたくしたちは悪役ですわ!」


 フォルテの良く分からない、そして当たり前のツッコミが入るが、フミネはものともしない。


「悪役が主人公だって、なんの問題も無いわ! 日本にはそういう話が沢山だから」


「流石はニホンですわ!」


 全てはニホンで片付いてしまう。ちょろいフォルテがいた。



 ◇◇◇



 そして1週間後、そこには新規大型甲殻騎ベアァさんを操る双子と、その下を駆け回るフェンの姿があった。どうしてそんな名前になった。


 勿論命名はフミネだ。双子はフェンに続いてニホン語の響きが気に入ったらしい。繰り返しになるが、ちっとも日本語でないことは秘密なのだ。


「フォルンが右で、ファインが左。流石は双子って所ね」


「ええ、息がピッタリですわ」


 嬉しそうに、だけどまだぎこちなくベアァさんを動かす双子を見上げ、フォルテが言った。


「わたくしたちも負けてはいられませんわ」


「うん、そうだね」



 フミネとフォルテは共に騎士特級を得た。誰にはばかることもなく、正当中の正当な方式で、満場の眼下でだ。これでは、中央も横やりを入れることは出来ない。当初懸念されていたフミネの処遇についても、養女とは言えフィンラントの正式な長姉になったのだ。これまた口出しをさせる理由にならない。


 こそこそとしながら、ゆっくりと手を進めるか、それとも堂々と大幅で歩くか。フィヨルトはここで後者に舵を切った。それが二人の王都行の実態だ。彼女たちはそれを実力で持って成し得たのだ。


 情報統制もすでに解かれている。というか意味が無い。当然、間諜の類や派遣隊からの報告はなされているだろうが、それは今まで通りの防諜体勢で対応することになっていた。



 もちろん今のフィヨルトには巨大な弱点がある。ライドの大公太子内定白紙の一件だ。だがそれは、母たるメリアによる諭し、姉たるフォルテからの大らかな煽り、義姉たるフミネからの客観的感想、そして婚約者たるシャーラによる手綱。4人の女性に囲まれお話合いが行われた末に、こう結論された。


「大公になりたければ、フォルテに勝ちなさい。別に力じゃなくてもいいわ。政治でも謀略でも、構いません。わたしたち四人を出し抜いて勝てるなら、そうなさりなさい」


「……はい」


「別に何をしなくてもいいですわ。平時ならばライドの方が良い大公になれると、わたくしは信じていますわ」


「……うん」


「突発的で感情的な行動で後悔したんだから、もう大丈夫。そうしなければいいだけ」


「……そ、そうだね義姉さん」


「わたしに相談してくれたら、王になる道を提示するわ。期待しているわ、婚約者様」


「……それは流石に」


 まあ、そんな感じだった。ライドが動けるようになるのはいつの日か。



 ◇◇◇



 さて、辺境を拡大し、さらに維持するための戦力保有をフィヨルトは掲げている。当然示威であり、これこそが戦力を持つ本来の意味だ。外交は右手で握手しながら、左手で殴り合う。両手があって初めて成り立つものだ。来るなら来い。殴り返すぞ。



「一番手強くて、最も強い個体を所望しますわ!」


 というわけで、フォルテは最強の甲殻騎を得る大義名分を得た。


「大型上級個体の情報を頂けますか」


 フミネもノリノリだ。


「お前たちは、そう、なんというか、大公に対して、もうちょっと手心とかは無いのかな?」


「お父様、そんな情けないことでどうしますの」


「お義父様、いえ大公閣下、これは必要なことなのです」


 大公令嬢二人は、大型上級個体をご所望だ。必要なのだ。壊すことの出来ない理屈と道理がそこにある。


「ああ、セバースティアン。国務卿と軍務卿に回してくれ。他国を、特に北と東を刺激しない範囲にいる大型個体全部の情報を、二人に提出させてくれ」


「畏まりました」


「セバースティアン。日取りを決めてくださいまし。わたしとフミネが直接聴取いたしますわ」


「うん、色々と勉強したいもんね」


「畏まりました」


 セバースティアンは動じない。


「私は日程が詰まっているので、同席は難しいな。うむ、この件はフォルテとフミネに任せよう。但し上申はしっかりとするのだよ」



 大公は逃げた。


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