第59話 パンツァー・リート





「前置きはよろしいですわ。早速、報告を聞かせていただきますわ」


 2日後の昼下がり、フォルテは前置きを全てブッチして本題を切り出した。フミネも頷いている。こういう連中なのだ。


 さて、ここにいるのは、国務卿、ディーテフォーン・ドート・キールマルテ伯爵。軍務卿、デリドリアス・ダスタ・ゴールトン伯爵。そして、第1騎士団長、クーントルト=フサフキ・ジェイン・トルネリア女子爵と第1騎士団副長、フィート=フサフキ・コース・ライントルート士爵といった面々だ。


 豪勢にも、この国にいる4人のフサフキの内、3人が一堂に会した。



「本当に討伐に向かわれるのですかな?」


 国務卿ディーテフォーン。通称ディードは中性的な雰囲気を持つ40代後半の切れ者だ。大公が頭の上がらない配下の一人でもある。


「もちろんですわ。なるべく大型で、将来的に大公国の脅威になりそうな個体がよろしいですわ」


 しかし、フォルテは堂々と返す。


「北と東は甲殻獣の分布に影響が出るかもしれません。大公閣下からもその旨、指示をいただいております」


「それは理解していますわ」


「では、3体程確認されている個体を。こちらになります」


 諦めた様にディードが書類をテーブルに乗せた。


「『白熊』に『茶大猪』、そして『白金』、ですか」


 フミネももちろんリストを見ている。西に2頭、南西に1頭。フミネも大体はフィヨルトの地理は理解している。南に進めば海がある。もちろん大森林を抜ければの話だが、開拓は進んでいない。西は正直分からない、分かっていない。この世界は、まだまだ探索されていない領域が多いのだ。


「全部はどうでしょう」


「全部? どういう意味ですかな」


 分かってしまったが分かりたくないという顔で、ディードが問うた。


「いいですわ。全部を討伐してしまえば、万事上手くいきますわ!」


 フォルテがノってしまった。これは危険な兆候である。軍務卿、デリドリアスが流石に口を挟む。


「それはあまりにも、その、危険が多すぎませんか?」


「うーん、時間もかかるかもですね」


 フミネも悪いことを言ってしまったと、前言を撤回する。しかし、彼女もまた強さと格好良さを求める女だった。


「だったら、一番強いのをやっつけてから新型騎を造って、それで残り2頭を倒しに行くっていうのはどうでしょう」


 軍務卿は片手で目を覆う。こいつら、大型上級をなんだと思っていやがるんだと。


「良い案ですわ! それで、一番強いのはどれですの?」


「ああと、弱い順ではだめなのですかな」


 ディードが諫める。だがそれは届かない。


「弱い順だとその度に、新しい甲殻騎を造らなくてはならなくなりますわ」


「どうしても強くないといけないわけですか」


 フォルテとフミネ以外がため息をついた。



「わたしだって、無理を言っているのは分かっています。だけど」


「やってみたらいいじゃない」


 フミネにしては謙虚な物言いを遮る者が現れた。


「まあ、わたしも着いていくし、聞いたら閣下と奥方様も行くだろうね」


 それは、第1騎士団団長、クーントルト=フサフキ・ジェイン・トルネリア女子爵の言葉だった。そう、彼女はフサフキなのだ。歳の頃は30代後半であるが、今が正に全盛と言わんばかりの圧を持っている。150センチくらいの身長なのに。


「当然、俺も行きますよ。だけど、見ているだけです。取り巻きはなんとかしましょう。ですが、本物とやりあうのは、お嬢たちですよ。いいんですよね?」


 第1騎士団副長、フィート=フサフキ・コース・ライントルート士爵が続いた。まだ若い。フミネと同年代くらいだろうか。この国唯一の男性フサフキだ。どうなっているんだ、この国。


 ちなみに彼、『金の渦巻き団』の貴族側顔役の一人だ。4つも下のフォルテに振り回された、ある意味ライドと似たような境遇を持っている。


「当たり前ですわ。わたくしたちが自ら倒してこそ、意味があるのですわ」


「そうだね、で、一番強そうなのは」


 フミネの指先が一つの名前を指した。



 ◇◇◇



「では討伐対象は南西にいる『白金』ということですね」


『白金』。大型上級個体とされる、白く、されど金色に輝く甲殻を持つ狼である。実際のところは、フィヨルトの領土とはとても言えない未開拓の森林南西部を、その縄張りにしている。そんな甲殻狼がヤバい二人にロックオンされた。


 子犬のフェンはどうだと言われても、相手が違うとしか言いようがない。犬や猫を愛でて、牛や豚を食べている者がどうだこうだ言えるだろうか。いちゃもん付けるなら4本足のテーブルでも食べておけと言うことだ。必要だから狩るだけなのだから。


「それで、わたくしたちはオゥラくんで出ますわ。随伴はどうするのでしょう」


「わたしたち第1騎士団も出すよ。今のところ大きな案件はないし、なんといってもお嬢方の大一番。見届けて、祝宴のネタにするさ」


「そうだな、第1騎士団から3騎。それと第2から第7まで1騎づつでどうでしょう」


 第1騎士団のトップとナンバー2が話し合いを始めた。


 各騎士団から出される9騎と、大公と妃の駆る1騎。そして大本命のオゥラくん。合計11騎、フィヨルトの単位としては増強中隊規模である。なんと、フサフキ4人が全員揃うことになる


「ああ、時間がもったいないので、全騎機動装備ですわ」


「対『白金』臨時増強機動中隊ですね。フォルテ、作戦名は?」


「騎士の行進、ですわね。フミネ、ニホン語ではどうなりますの」



 翌日、『パンツァー・リート』作戦の計画書を読んだ大公が、頭を抱えたのは言うまでもない。


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