第53話 さあ本番が始まるぜ
「あのさ、次は本気の本気でやろうね」
「どういう事かな」
「この後の事を考えて、怪我しないように立ち回っていたんだろ?」
「どうだろ。だけど全力でやって、負けたのは、事実だよ」
「うん。分かってる」
なんか、お互いに理解しあっているフミネとヴァーニュであった。
「わたくしも理解出来ていましたわ!」
「わたしも分かりました」
そこに乱入してくるフォルテとシャーラである。きゃいきゃいとした男性が近寄りがたい、だけど物騒な会話である。女子会的イメージが崩壊していく。ライドは所在なさげに隅っこに座っていた。
ケースド・フォートランには、連邦全域から文物が集められる。当然食においてもそうだ。故に、昼食として沢山の種類の食事が供されていた。学生料金である。
「はいはい、サンドイッチ、サンドイッチ」
「なんですの?」
「いや別に」
数々の具が挟まれたサンドイッチが並べられていたわけだ。
「紗香さんの仕業ってわけじゃないだろうな」
「先々代の聖女様所縁の料理と伝わっていますわ」
「マジかっ」
知識チートであった。
◇◇◇
昼食も終わり少々の休息を過ごす間に、訓練場の雰囲気がちょっと変わって来ていた。酒が入ったからだ。出すな。
「なんだか見世物みたいになってきたね」
「ですわ。でも、熱い見世物ですわ」
「主役はわたしとフォルテだね!」
「さて、主役を引き立ててくれるのはどなたかしら?」
二人が悪い笑みを交わす。
「それではそろそろ、最後の試技を行いたいと思う」
微妙な盛り上がりを見せている訓練場の中央で、学長が発言した。
「えー、その、一応教官が準備はしている。しているのだが」
その先は、もう皆が分かっていた。
「もし、試技のお相手をしてくださる方がいるならば、名乗りを上げてくださるでしょうか」
そして学長の口調が丁寧になってしまっている。バレバレだ。
「私とアリシアで行こう」
「畏まりました、殿下。ではそのように」
「右騎士1級の私と、左騎士特級のアリシア。不足どころか十分に過ぎるだろう。よいな」
王太子は、堂々と言い放った。
「もちろんですわ! これ以上のないお相手。殿下に感謝いたしますわ!」
フォルテが言い返す。どっちも大したタマだ。
誰も反論しない。王太子殿下の意志である上に、多分この場で最強の両翼がこの二人だからだ。
そして同時に思う。ここまでの光景を見てきて、番狂わせというか、尋常じゃないモノを見せられて、その上でこの最終戦だ。まさかとは思うが。いや、相手は王太子殿下だ。あのフォルテであれ、立場はわきまえるだろう。婚約破棄の時ですら引いたのだから。
その認識は大いに間違っている。確かにフォルテは婚約破棄をされた。それを受け入れた。だが今そこにいる彼女はただの大公令嬢ではない。悪役令嬢なのだ!!
きゅいぃぃん。
独特の起動音を立てて、2騎が立ち上がる。片方は王太子とアリシアのペア。もう一方は我らが悪役、フォルテとフミネだ。
両騎がそれぞれ訓練場の中央に歩み寄り、20メートル程の距離で対峙した。
「フミネ。全力でやりますわ」
「ええ、良くってよ」
「なんですの、その言い方は?」
「ん? なんとなくだよ。フォルテこそ気合はどう?」
「万全ですわ!」
「じゃあ、やろう!」
フォルテの守り石たる右手の指輪と、フミネの指貫グローブが輝きだす。
本来、明灰色のはずであった、訓練騎が薄蒼い光に包まれた。
「やるぞ、アリシア。私たちの力を見せつけるのだ」
「はい! 全力を尽くします!」
「今まで左翼を持たないアレが、昨日今日で浮かれているようだが、そうはさせん」
「お言葉ですが殿下。あまり低く見積もられるのも」
「分かっているさ、アリシア。これは油断ではない。全力でアレを叩き潰すだけのことだ」
「……畏まりました」
その騎体が赤く包まれ始めた。
◇◇◇
「うおおおお!!」
王太子騎(仮)が一気に踏み込んでくる。甲殻騎にとって、この距離など間合いに等しい。フォルテ騎(仮)は不動のままだ。構えすらとらない。
自然体こそ、フサフキの構え。言い換えれば、どんな格好をしていても、それが構えだと言えばそうなのだ。フサフキの懐の深さがそこにはある。ちょっと違うかもしれないが、フサフキ的にはオールオーケーなのだ。
王太子騎が迫りくる。そして右腕に装着された穂先を突き出そうとしたその瞬間。
「殿下!!」
「なにぃっ!?」
アリシアが叫び、王太子が動揺する。
がいぃぃっん!
優雅に一歩を踏み出したフォルテ騎が穂先をかい潜り、そのまま王太子騎と正面衝突した。
「なんのつもりだあ!?」
「あら、ご挨拶ですわ」
両騎の胸がぶつかり、目の前のキャノピー越しに四人の視線が交わる。
「気づいてる? アリシアさん。肘を出していたら、終わっていたよ」
「……」
フォルテがフミネが相手を煽る。事実で煽る。
そして同時に両騎が跳ねる様に後ろに下がり、再び対峙する。
「さあ、ここからが本番ですわ!!」
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