第51話 この世界には、どうしてこんなにキマった女性が多いのか
「あれは、どういうことだ。クエスリング」
「……凄いという事は分かりますが、それ以外は分かりません」
王太子が騎士団長令息に問うた訳だが、返事はあっさりとしたものだった。そして王太子もそれに同意してしまう。
「アリシアはどう思う?」
「は、はいっ。とても凄いと思いました」
アリシア・ランドールは、素直に答えた。栗色のミディアムヘアをポニーテールにして、同じ色の瞳を持つ、元来、元気溌剌系の美少女である。中肉中背ではあるが、出るところが出っ張っていない。今後が期待される18歳だ。
婚約破棄騒動からここの所、表情の固いアリシアだったが今だけは目を輝かせていた。それがまた、王太子の心を騒めかせる。
「なぜ2代も続けてフィヨルトに聖女が現れる。そもそも聖女なのか? あれは」
「聖女は、最初から聖女ではありませんわ! 何を為したかで聖女となるのですわ!!」
殆ど呟きのような王太子の台詞を聞いたフォルテが、叫ぶように答えを返した。
「おま、お前のそういうところだ!! なんでこの距離で聞こえるのだ!?」
「わたくしは耳ざといのですわ」
「ちっ!!」
優しい王太子が舌打ちをする。それだけで、周りの評価はどうなるのやら。
「うん! 面白いなあ、面白い。あの人、凄いなあ」
騎士団長令息の婚約者、アーテンヴァーニュ・サーニ・フェルトリーンは興奮していた。赤い髪を短く纏め、濃褐色の瞳を輝かせている。この地の女性としては比較的背が高く、170を越えているがバランスの良い体型で、太さは感じられない。どちらかと言うとモデル体型の彼女は、今にも飛びかかりそうな獰猛な笑みでフミネを見つめていた。
◇◇◇
「えっと、3級の技能はお見せ出来たと思います」
騒めく訓練場を他所に、フミネが小首を傾げ、学長にきょとんとした顔を見せた。
完全に狙ってやっている。異世界定番『なんかやっちゃいました』ムーブだ。事実、その後に気まずげに顔を俯けるが、そこには悪い笑顔が張り付いていた。やってやったぜ!
「う、うむ。まずは3級ならば間違いない。証は得られるな。儂が保証しよう」
王太子の心象などに構っているわけにはいかない。これだけの満場の元でアレを見せられたのだ。不合格にした時に何を言われるか。という訳で、簡単にフミネは右騎士3級となった。問題はそこからだ。
「君ならば、2級、いや1級すら見込めそうだが、挑む気はないのかね?」
「2級から上って、格闘評価ですよね。わたしはいいです。3級で十分ですから」
ギリギリギリ。
会場からは歯ぎしりが聞こえるが、ガン無視だ。ここまでは予定調和。この後こそが本番なのだから。
「そ、そうかね。いつでも上の証を取りに来るがいい。王立騎士学院はいつでも開かれているのだからね」
良し、良い事をいった。これでこそ学院の理念が保たれるということだ。ご満悦の学長であった。
◇◇◇
「さてそれで、次なのだが」
「はい。戦士試験をお願いします!」
「最低でも1級、だったかね。こちらで担当を用意した。1級は最低どころか楽なものではない。心して挑みなさい」
「分かりました」
30代中頃の男性が現れた。戦技教官であり、今回の試験担当に抜擢された学院では有名な人物だ。武を纏わせ、悠然と訓練場に進み出る。彼はもちろん、戦士1級を持っている。
「ちょっとまってー!!」
一人の女性がフミネと試験担当官に間に割り込んできた。言わずもがな、騎士団長令息の婚約者、アーテンヴァーニュである。
「教官お願いします! わたしにやらせてください!!」
「アーテンヴァーニュ嬢、それは流石に」
「やらせてください!!」
「ぐ、ぐぬ」
「わたしは教官より強いですよね! フミネ・フサフキさんは特級を希望しているんだから、わたしの方が適任です!!」
声がデカい。圧が強い。そして戦士1級ではあるものの、昨年度卒業生で2番目の強さを持っている。ぶっちゃけ騎士団長令息より強い。アーテンヴァーニュはそういう存在だ。
「あ、あの、学長?」
「儂に振るのか。そうか」
「学長!?」
学長が教官からそっと目を逸らす。フミネはフミネで、次々と現れるなんかキマった女性たちにおろおろするばかりだ。なんだ、この国。
「うむ、アーテンヴァーニュ嬢の実力は折り紙付きだね。ここは彼女に任せようじゃないか」
「そ、そんな!」
ここが見せ場と思っていた教官は、がっくりと肩を落とす。
「ありがとうございます。学長!」
対照的に大変元気なアーテンヴァーニュである。
「また、ヤラせじゃないだろうな」
「バカ言うな。さっきのアレがヤラせだって言うのか」
「いや、だけど」
「見てりゃ分かるだろうさ」
例によってざわざわする観客だが、フミネとしてはそれどころではない。フォルテやメリアさんよりは強くない、と思う。だが、何かが背中を駆け抜ける。強い。この人はかなりヤバい。
◇◇◇
「それで、素手でいいの?」
「ええ、わたしはフサフキですから」
アーテンヴァーニュとフミネは対峙していた。
「敬語止めようよ。口調も含めてガチろう」
「……おっかないね。いいよ」
お互いが獰猛な笑顔を浮かべる。それを浴びた観客たちは、鳥肌を立てる。平気な顔をしているのは、メリア、フォルテと一部の教官と職業軍人たちくらいなものだ。戦士1級を持っている王太子や、騎士団長令息ですら緊張を隠せない。
「わたしのことはヴァーニュでいいよ。こっちもフミネって呼ぶからさ」
そう言うヴァーニュの得物は50センチほどの骨だ。短槍にしても、それでも短い。
「リーチは短いだろうけど、そういう相手って苦手なんだよね」
フミネが自分の不得意を堂々とさらけ出した。嘘は言っていない。
「それもやるんでしょ?」
「あったりまえ!」
開始の合図も無しに、二人が動き出した。
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