第23話 甲殻騎演武
「着地、柔らかく!」
「分かっていますわ!」
フォルテにとって、今までに感じたことのない甲殻騎との一体感。であるならば、出来るはずだ。しかも左翼は他ならぬ信頼を置くフミネだ。
ずっしぃぃん!
重たい音を立てて、オゥラくんが崖下に着地した。素早くフミネが計器類を確認する。
「うん! いいよ。問題なし」
「砦には通達が出ているはずですわ。存分に暴れますわよ!」
「よっし、やろうか」
◇◇◇
「歩む仕草は」
「羽のごとし」
「捌く動作は」
「水のごとく」
「対する仕儀は」
「劇の見栄!」
「そう、羽みたいに歩いて、水みたいに捌いた時には劇の台本ができあがっているの。それが『芳蕗の技』!! フォルテ、出来る?」
「左にフミネがいるのに、無様はありえませんわ!」
「そう、ならやって見せて!」
ちなみに上記の詩はフミネの創作だ。そこに先代聖女は絡んでいない。
実際のところ、先代聖女、すなわちかーちゃんの芳蕗と、フミネは芳蕗はいささか異なる。
前者は真っすぐに弾き飛ばし、ぬるりと決めるのに対し、後者はゆるりと侵入し、致命の一撃を叩き込む。やっていることは似たようなものだが、表と裏ということにしているフミネである。かーちゃんの方が強いのが悔しいフミネであった。
とにもかくにも、オゥラくんが踊るように、運動を始めた。
◇◇◇
「申し訳ありません! 遅れましたっ!」
「何をしているか。如何に氾濫の予兆がないとは言え、弛んで良いとは誰も言っていない。あの聖女様の献身をどう心得ているかっ!」
「はっ!!」
「貴様ら2名は、本日と明日の哨戒だ。心があるなら励め!」
「了解いたしました!!」
こうしてトルヴァ砦駐在部隊から、懲罰的哨戒任務を命じられた2名であった。
「金髪は?」
「渦巻きます!」
「よし。任務ご苦労。本日の哨戒に置いて、貴様らは『甲殻騎を見ていない』。繰り返す必要はないな?」
「はっ!」
という茶番であった。彼らが何者であるか、それは後に分かるとして、今は目の前の任務であった。
「踊っている!?」
「あれ、オゥラくんだろ? お嬢が翼を得たって、本当なのかよ」
「だけど、おい、見ろよ」
「ああ、すげえ、すっげえ!」
二人は涙すら流していた。これまで左翼を得ることも無く、それでもひたすら歩み続けた、敬愛なるお嬢が、あのお嬢が羽ばたく時が来たのだ。それを非公式とは言え、見ることの出来る栄誉。これは、あとで小隊長に伝えねばと、心から思ってしまった。
それくらいオゥラくんは、舞っていた。
「いいよっ! 膝と股関節の負荷は許容内。ってか、あれでしょ。フォル・ザンコー応用してるでしょ」
「当たり前ですわ。騎体も身体も同じこと! 力を増幅して伝える道しるべですわっ!!」
深く踏み込み、それなのに大きな音もたてずに、騎体が動く。いや、脚によって引きずり込まれると言ったほうが正しいかもしれない。その反動をそのままに、上体を斜めに傾ければ、それがそのまま打撃と化す。
「基本は、オッケー! ああ、上出来ってこと。ここからはもっと複雑にいくよっ!」
「了解ですわっ!」
「上と下、対角線。軌道変化。どんどんやってくよー」
上段右回し蹴りを放った直後に、騎体を沈みこませたまま、地面すれすれに左腕が降りぬかれる。もしも敵がその両方を躱したならば、次に待っているのは、左脚のミドルだ。
いかに『フサフキ』が伝えられたとは言え、まだこの世界では考えの薄いコンビネーションアーツが、フォルテの体に刻み込まれていく。
「さあ、どんどんいくよ! いける?」
「当然ですわっ!!」
オゥラくんが、フミネが、フォルフィズフィーナは強くなっていく。
それはもう、楽しくて楽しくて仕方がない。
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