第24話 金の渦巻き団





 おおよそ1時間、オゥラくんが両脚をやや広げ、両腕をだらりと垂らしたところで、演武は終わった。



「んじゃ、行くか」


「ちょっと怖いな。すっげえ嬉しい」


「どっちだよ」


 渓谷にある岩の陰からその姿を見守っていた、一応懲罰哨戒の二人が立ち上がり、オゥラくんへと近づいていく。


 それとほぼ同時に、渓谷の上に何人もの若者たちが現れた。そして、滑り降りるように崖を下ってくる。



「な、なにあの人たち」


「ふっ、来ましたわね。大丈夫ですわよ、頼もしい味方ですわ」


「な、なんか格好がバラバラなんだけど」


「見ていれば分かりますわ」


 フミネとフォルテが会話をしている間にも、ワラワラと集まって来た者たちは、オゥラくんの前に整列し始めた。


 合計4列、その先頭から少し進み出た一人が号令をかける。例の懲罰哨戒をしていた兵の片割れである。


「総員直立! 団長! 主に本日非番の団員に召集をかけました。総員26名です!」


 オゥラくんの膝を落とし、フォルテがハッチを開放する。そして、立ち上がる。


「皆さまご苦労様ですわ!」


 ちなみにフォルテとフミナは、一般的な濃灰色の軍制騎乗服を着ている。フォルテのゴージャスな髪と相まって、迫力は満点だ。


「我ら『金の渦巻き団』! お召しにより参上いたしました」


「なにそれ!?」


 フミネのセリフももっともだ。



 ◇◇◇



 さて、この『金の渦巻き団』。そもそもは、フォルフィズフィーナがフォルテの時代からの遊び仲間だった。一応、10歳までは幼名を使うという伝統ということである。3歳の段階でソゥドに目覚めたフォルテは、城、つまりヴォルト=フィヨルタ内で暴れるだけでなく、容赦なく街へと繰り出した。両親もそれを止めなかった。


 初代が自ら甲殻獣を狩り、開墾をし、街を造り上げていった。そんな気風のフィヨルトでは、貴族と呼ばれる層と、平民との距離が、えらく近かったのだ。


 まずフォルテは城内を掌握した。同世代の貴族子息子女を遊び仲間として、時には訓練仲間としてとりこみ、団の原型を作り上げた。勿論その中には、一つ下の弟ライドも含まれていた。姉に勝てる弟は存在しない。


 そうしてフォルテは城内で特訓を積んだ。その上で、街へと繰り出したのだ。下町では下町で、幼いながらのソゥド自慢がいくらでもいた。そしてフォルテは、そのことごとくを撃破し、配下に収めていった。


 そこでフォルテはルールを作った。身分に関わらず平等であること、力に関わらず公平であること。それは、母メリアスシーナ・フサフキの教えであった。フォルテは忠実にそれを実行した。それが、格好良いと思ったからだ。


 いつしか彼らは自らを『金の渦巻き団』と呼ぶようになった。それは悪の秘密結社ではない。正義の義賊なのだ。だが、金持ちから金をかすめ取り、持たざる者へと配るという典型的義賊行為は行われなかった。だって団のトップの実家が一番のお金持ちなのだから。


 というわけで、『金の渦巻き団』は自らを鍛えつつ、困った人の元へ参上するようになった。腰を痛めたおじいちゃんの畑に殺到し、蝗のように耕し、差し出されたお菓子をむさぼり去っていく。あるときは、人足が不足している仕事場に押しかけ荷物運びを手伝い、子供料金の賃金を得た。そして病気で臥せったお姉ちゃんの所に押しかけては、出世払いを約束させた上で薬を押し付けた。


 まこと、恐るべき集団である。だが、15歳を境に人員は去っていった。各人が職を得たからである。しかし、団は消えていなかった。絆も失われていなかった。



 ちなみに現在は、『金の天秤団』という団が、似たような活動をしている。トップがどこぞの双子なのは言うまでもない。



 ◇◇◇



「そういうわけですわ!」


「そ、そう。でも、格好良いね!」


「当然ですわ!」



「お嬢、ついに翼を得たんですねっ!!」


 『金の渦巻き団』メンバーの一人が叫ぶ。


「ええ、紹介いたしますわ。彼女の名はフミネ・フサフキ。わたくしの左翼ですわ!」


「ええと、立ち上がってもいいの?」


「もちろんですわ」


 フミネも立ち上がり、団員を見下ろす形となった。


「黒目、黒髪、フサフキ?」


「まさか、聖女様!?」


「お嬢の翼」


「うおおおおおおおおおおお!!」



 『金の渦巻き団』の面々が雄たけびを上げた。


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