第22話 第四世代甲殻騎
仮呼称、フォル・ザンコーがフォルテによってお披露目された翌日、フォルテとフミナはオゥラくんに乗ってトルヴァ渓谷を目指していた。辺りの目をはばかって、操縦はフォルテだけである。ギクシャクとした動きで、渓谷へと向かう。そこに、以前との違いを見出すことが出来る者がいるだろうか。
フミネは後席でまったりとしていた。ここのところのソゥド訓練で、この程度の揺れではどうということはない、という身体を身に付けていたからだ。そうして、フォルテの甲殻騎講座を拝聴している。
「原初の甲殻騎、フィ・ヨルティアは言わばソゥドで無理やり動かした甲殻の操り人形ですわ」
材料が揃っていたとはいえ、20時間ほどで組み上げたというから驚きだ。しかもそれで大型甲殻獣と戦ったという話を聞いて、フミネはビビる。フォルフィナファーナという人の適正と言い、それを治しながら戦ったという、かーちゃん。どれほどの勇気と気概があれば、そんなことが出来ると言うのか。英雄視、聖女と呼ばれるのも理解できる。
「それから何騎かの甲殻騎が造られたというお話ですわ。ですが、適正を持つ方がほとんどいなかったようですわ」
「なるほど」
「そこで、フォルフィナファーナ様が考案されたのが、第二世代、すなわち複座型甲殻騎ですわ!」
「オゥラくんがそうなんだね」
「複座ということではそうですわ」
動作担当の右翼、制御と補助出力担当の左翼が騎乗することで、適正を持つ者を飛躍的に増やしたのが第二世代甲殻騎であることは、前述した。
「でもオゥラくんは第四世代なんだよね。まだ半分」
「ええ、もちろん続きますわ。第三世代はフォルフィナファーナ様が晩年に導入した『核石』を内蔵した甲殻騎を意味しますわ」
「『核石』?」
「中型以上の甲殻獣から得られる、ソゥドを宿し、ソゥドに反応しやすい石のことですわ」
魔石かよって、フミネは思ってしまう。つか魔石って言われた方が納得しやすい。
「フミネももう見たはずですわよ」
「え?」
「部屋の明かりですわ」
「ああ、あれがそうなんだ」
「使い勝手が難しいのですわ。光、熱、風などがありますけど、一部の用途でしか使われていませんわ」
フミネにしてみれば、宝の山の様にも思える。使い方次第で発電まで出来そうな。いやいや、いまは甲殻騎の話だ。
「第三世代には、無と呼ばれる『核石』が使われていますわ。ソゥド力の底上げ、蓄積ですわね。オゥラくんにも搭載されていますわ。特別製の大型級ですわ!」
自慢気なフォルテだが、大型級じゃないとフォルテのソゥドに負けて割れてしまうのが実情だったりする。つまりオゥラくんは中型の殻をかぶった大型エンジンを積んでいるようなイレギュラーな甲殻騎だったりする。
「なるほど、オゥラくんは凄いんだね」
「そうですわ!」
実際のところは関節部への負担が大きく、ちょくちょく換装されているというのが実情だ。
「それで第四世代は?」
「第四世代はちょっと毛色が違って、制御と情報収集が主眼になりますわ」
フォルフィナファーナ亡き後、第三世代で止まっていた甲殻騎。もちろん、さまざまなアイデアが試され、第四世代と呼ばれるものも登場した。だが、第三世代と第四世代はっきりと区切ることになったのは、フォートラント連邦王国の王立工廠にて開発される。それは。
「目の前にある、操縦桿と計器ですわ」
第三世代までの甲殻騎では、あくまで感覚で操縦が為されていた。それを目に見える形に変えたのが各種計器類である。あくまでアナログであるが、それだからこそ繊細な技術が必要とされた。地球で言えば2次大戦中の航空機の計器類にあたる。
各関節部から繊細にコックピットまで張り巡らされた甲殻獣の腱の伸び縮みをアナログメーターで表示し、光の核石にはソゥド出力が伝えられ、光度によって状況が伝えられる。
「ああ、なるほど、このぴょこぴょこ振れてる針が、関節負荷なんだ」
こういうのには理解が早いフミネである。
「そうですわ。そしてこの操縦桿も特別製で、中型以上の甲殻獣から取れる、ソゥドを通しやすい特別な骨が使われているのですわ」
どこぞの希少な部位の肉みたいな扱いであるが、そういうことであった。
さらに恐ろしいのが、それに合わせて操縦席の規格化まで図られたということだ。これについては、第四世代に至り、甲殻騎一騎あたりの製作時間が2倍、費用が5割増しという現状があったためでもある。
ここまでが第四世代甲殻騎の進化の歴史である。
◇◇◇
そうしているうちに、渓谷の上までやって来たオゥラくんである。
「では、フミネ。イケるかしら?」
「もっちろん。いっくよぉ」
ロボット大好きな、フミネはここまで我慢していた。これまで動かしたのは二度。一度目は訳の分からないままフォルテと一緒に。二度目は実験的に右翼にとして一人で。だが今回は違う。膨大なソゥド力を持ちながらも適正に欠けるフォルテを右に、そしてそれを制御できる可能性をもつフミネが左に。
初めて意思を込めて、ロボットを甲殻騎を操縦する。フミネのテンションが跳ね上がる!
フミネが操縦桿を握る、思いを込める。両手の指貫グローブが蒼く輝きだす!
「フォルテ、最初の時と一緒だよ。オゥラくんと手をつなぐの」
「わかりましたわ」
「ちゃんとわたしが手伝うから。安心して、思いっきりやっていいからね!」
「信じていますわ!!」
オゥラくんが崖から飛び立った。
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