第21話 二人は凄い





 ずうぅん。



 訓練場に重たい音が響く。フミネの繰り出した鉄山靠が丸太を圧した結果だ。


「力の載せ方が違いますわね」


「ええ、押すと言うより、斜め下に押し込む感じかしら」


 フォルテとメリアの感想が並ぶ。


「じゃあ、ソゥド抜きでやってみてください。関節の連動と力の載り方を意識して」


「分かりましたわ」


 というわけで訓練である。フォルテとメリアはあえてソゥドを使わずに、フサフキの技の矯正を。そして、双子、ファインとフォルンはフミネと鬼ごっこだ。


 訓練場では、丸太にひたすら背中を叩きつける女性二人と、キャッキャとお姉さんを追いかけ回す双子の姿があった。カオスである。


「メリアさーん、オゥラくんはいいんですか?」


「ええ、フミネさんがある程度力を付けて、制御出来るようになってからですね」


「分かりましたー!」


 フミネが双子に追いかけられながら会話する。実際、ソゥドを意識するようになって翌日に、こうして遊んでいられるのは異常である。メリアは当然気が付いていた。


「聖女、ということですか」


 強いと言うより上手い。ソゥドの力はそれほど大きくない。むしろ、ファインとフォルンの方が大きいくらいだ。だが、制御だ。要所要所で込める力が上手くコントロールされている。センスとでもいうのか。しかしまだ2日目、歴代聖女には全く及んでいない。当たり前だ。だがそれを認識出来る者はここにはいない。ただ、フミネは凄いと思うばかりだ。



 ◇◇◇



 昼になり、食事が届けられた。軽食、すなわちサンドイッチだ。面倒なのでフミネは突っ込まなかった。そして、午前中に得られた各人の成果を報告しあう。


「見えてきましたわ。踏みしめる力を、身体を通して大地に返す感覚ですわ」


「難しい表現ね。身体を旋回させて、ねじり込むながら押し込む感じね」


 フォルテとメリアは何だか良く分からない会話を繰り広げている。


「フミネ、凄いね!」


「なかなかやりますわ!」


「うん、ありがとう」


 年少組はほのぼのとしたものだ。だが彼らにしても、すでにフィヨルトの戦士の平均には達している。実は凄いのだ。


 そうして午後も各人が為すべきことを為していく。メリアは執務があるため訓練場を離れたが、フォルテはひたすら丸太に背中をぶつけ続けている。2本ほど叩き折ってしまったので、今は3本目を相手にしているところだ。


 フミネはといえば、双子相手の鬼ごっこを続けている。が、双子はすでに息を切らし始めていた。全力の双子と、要所毎に力を制御しているフミネとの違い。もうひとつはソゥドに頼り切るこちらの世界と、しっかりとした体力を持つ日本から来たフミネとの違いだ。それでもフミネも余裕という訳ではない。荒く息を吐きながら、それでも双子の伸ばす手を捌いていく。


「やるねー!」


「届かない」


「さわれないですわ!?」


「これが『芳蕗の技』だよ。ほうら、がんばれ、がんばれ」


 22歳の女性が12歳の双子をあしらう。大人げない光景であった。



 ◇◇◇



「フミネ、何か分かった気がしましたわ。見てくださいですわ」


 フォルテがフミネを呼んだ。


「何か掴んだの?」


「ええ、こんな感じかと思うのですが、意見をいただきたいのですわ」


 すでに夕方。夕食まで1時間も無いだろう。だが、朝からこの時間まで、フォルテはひたすら丸太を相手に試行錯誤してきたのだ。ただ漫然とそうしていたわけではない。考える、実行する能力をフォルテは有していた。


 ちょっとぐったりした感じでフミネはフォルナの元へと赴く。双子も這いずるようについてきた。


「では、やりますわ」


「近くない?」


「ええ、ですが、これくらいの間合いが良いかと思いましたのですわ」


 それは、異常とも言える近接距離だった。丸太までの距離は50センチ程度か。


「ふぅむ!」


 軽い掛け声とともに、自然体からフォルテは踏み込む。いや、踏み込みと言うより、軽い一歩を踏み出しただけだ。実際に震脚からもたらされる轟音も聞こえない。ただ静かに一歩を踏み出し、丸太に背中を当てただけ、それだけだ。



 ずうぅぅん。



 直立していた丸太は、手前側に傾き、そして10センチほど沈んでいた。


「あのさ、フォルテ」


「なんですの?」


「それ、わたしより凄いし、もう別の技だよ」



 この日、フォルフィズフィーナ・ファルナ・フィンラントによって、新たなフサフキの技が誕生した。


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