第16話 フミネのソゥド
それから、フォルテとメリアに懇願され、5回程鉄山靠を披露したフミネであった。お願いした二人はそれこそ目を皿のようにして観察し、4回目と5回目に至っては、自分で体感するといって受け止めてすらいた。
「やはり、本物は力の伝わり方が違いますわ」
「ええ、そうね、勉強になります」
ノーガードで全力の鉄山靠を受け止められ、少し落ち込むフミネであった。絶対に強くなってやると思いを強くする。
「それではお手本ですわね」
「うん、お願い」
今度はソゥドの方である。やっとこさ教えてもらえると、フミネのテンションも上がるというものだ。
「ではまず、強化からですわ。フォルン、お願いしますわ」
「わかりましたわ!!」
フミネはちびっ子に教えてもらうことになってしまった。
「フミネには、わたくしやお母様のソゥドはまだ早すぎますわ」
とのこと。
「はあああ、ですわ」
フォルンがなんか力むと、左手手首に巻き付いていた細い銀色の鎖が、赤く輝きだす。
「あれが『守り石』ですわ」
「『守り石』って、力が流れると光っていうアレね。アクセサリだと思ってた」
「効果は二つですわ。自身のソゥド力の底上げ。そして、甲殻騎を始めとする甲殻装備との接続ですわ」
そんなフォルテの解説の最中、フォルンが動いた。
どぱんと、地面が蹴られ。全身がブレるかのように3メートルくらい移動する。そこから繰り出されたのは、右脚と右肘だった。
「躍歩頂肘……。凄い」
「見えましたか?」
「なんとか」
メリアの言葉にフミネが答える。そう、なんとか見えてはいた。だが出来るかと言われると、今のフミネには出来ないという回答しか出すことができない。
「フォルン、もう何度かやってみなさい。フミネさんは見ることに集中して」
「はいですわ!」
「はい!」
見えるはずなのだ、見えると信じるのだ。フミネは自分の心に言い聞かせる。何度も何度も言い聞かせる。信じる。
5分程が経過した。
「フォルン、全力で踏み込みなさい!」
メリアが大声で指示を出す。返事もせずに、フォルンがここまでで最大最速の踏み込みを見せた。
ずずん。
「見え……、た? 見えた!」
「それがソゥドですわ。フミカ、両手をごらんなさい」
「え?」
フミネの両手の指貫グローブが、蒼く薄い光を放っていた。
◇◇◇
「これがソゥド……。これがソゥド! やった!!」
「おめでとうございますですわ。第一段階は成功ですわ」
「うんうん、フォルンちゃんもありがとう! すっごく勉強になった」
「どういたしましてですわ! だけど、わたくしでも3日かかったのに、くやしいですわ」
「ぼくなんか1週間もかかったよ。悔しい」
「あははは」
素直な双子に、何と返すべきか悩むフミネであったが。
「聖女様方は力を使いこなすのが凄く上手だったと言われているの。フミネさんも最初から薄くだけど纏っていたし、オゥラくんの左翼にもなれた。あなたがたは自分の精一杯をつきつめればいいの」
「はい!」
「はいですわ!」
流石は母親。見事な回答だった。
「では、フミネ。思い切り動いてみるといいですわ。さきほどのフォルンを想像して、出来ると信じるのですわ」
「分かった。やってみる!」
フミネが動き出す。
一歩目は普通だった。二歩目はちょっと速く、そして三歩目はさらに速く深くなる。
「出来る! やれる! 信じる! わたしは出来る!!」
一歩踏み込む度に、技を繰り出す度にフミネは叫ぶ。まるでヤバい会社の訓示みたいなことを連呼するヤバい人物だ。だが、ソゥドを扱うという意味では正解だ。今は恥ずかしいからやらないけど、後で練習する時やってみようと思う双子がいた。
「そこまで! 十分ですわ」
「いや、最後に一発!!」
フミネは小さくだけど力強く右脚を踏み込む。そのまま地面を掴み、こしを切り、そのまま右腕を内旋させて。両脚の内側、右寄りに打ち込んだ。ぶわっと風が舞った後には、地面すれすれで停止したフミネの右腕があった。
「芳蕗改・音形……、理屈じゃない。出来たっ!!」
「フサフキ・カイ・オトカタ? どういうことですのっ!?」
「いやぁ、体重や力じゃかーちゃんには絶対勝てないから、対抗しようと思って作った技なんだけど、理屈でしかなくってね。ソゥド使えば出来るかなあってさ」
「教えてくださいですわ!!」
フォルテの叫びが訓練場に轟いた。
「だめ、秘密。もっと完成度上げて、一子相伝の方の芳蕗奥義にする予定だから」
「酷いですわあぁぁ!!」
さっきよりさらに音量を上げた叫び声であった。
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