第15話 ソゥドの力、芳蕗の技




 そもそも、というか、いい加減ソゥドの力について述べなくてはいけないだろう。


「ソゥドの力は意思の強さですわ!」


 フォルテの言っていることは正しい。人には筋力や技術、心理状態など、様々な力が存在している。そしてこの世界では『ソゥド力』なる意志の力が、それらを飛躍的に向上させることが出来るのだ。故に男女の差もなく、ただひたすらに心を高めていくことが、強さに繋がっているのだ。


 だが、強さとは技と心と、あるいは虚実を伴わなくては覆される。だからフィヨルト大公国では、『フサフキ』が、圧倒的ネームバリューを誇っているのだ。自国に現れ、甲殻獣氾濫を蹴散らせてみせたその技の名を。



「いやだから、重たいって、かーちゃん」


 フミネの率直な感想と言えば、何してくれてるんだ、である。


「ですが、フミネもソゥドを使ったはずですわ。あの時の両手の輝き。まさに伝説の聖女のようでしたわ」


「両手? 輝き? そんなのあったっけ?」


「ええ、その両手にはめられた手袋が、蒼い光を放っていましたわ! 間違いありませんわ!」


「あの時は必死にしがみついていただけだから。あ、でも……」


「なにか気になることが?」


 メリアが問うと同時に、ふと気づく。


「左翼……、ですか」


「はい。あの時、フォルテとオゥラくんの声っていうか、心が聞こえた気がしたんです。動いてくださいましって、動かしてくれって。だから、二人の手をとって、繋いでみたんです」


「甲殻騎と右翼、左翼の繋がりについての感覚は人それぞれです。研究はされていますが、数字として扱えるような段階ではありません」


「それですわ! フミネはわたくしとオゥラくんを繋ぐことが出来るのですわ。それがフミネの聖女としての力ですわ!!」


 フォルテの決めつけが入る。が、それもあながち間違ってはいないのだ。実際あの時、フミネは繋げたのだから。



 ◇◇◇



「フミカさんが、左翼として強力な適性を持っていることは間違いないでしょう。それがフォルテに限定されたものであってもです。ならば尚更の事、ソゥドを鍛えなければいけませんね」


「えっと、どういうことでしょう」


「フォルテ? あなたはあの甲殻牛とどのように戦ったのかしら?」


「そうですわね、突進を華麗に肩でかちあげてから、豪快にして勇壮なテツ・ザンコーでとどめをさしましたわ」


「過剰な装飾はどうとして、それを為すだけでも操縦席はかなりの揺れであったでしょう。ソゥドを纏わない状態であれば、耐えられないほどの」


「あっ!」


「そういうことです。無意識で必死になることで、フミネさんもソゥドを使っていたのだと、わたくしは考えています。そして、無意識で出来たことならば、意識的にも可能なはずです」



 定番である人間が操縦する大型ロボットに付きまとう問題だ。すなわちG。それをどう扱うか。


 例えばオゥラくんは約7メートルの体高を誇る。そして操縦席はその高さにある。人型のソレが縦横無尽に運動したとすれば、操縦者にかかる慣性はとんでもないことになる。


 よってこの世界の住人は、とある方法でそれを克服した。簡単で単純な方法だ。



『ソゥドの力で身体を強化してなんとかする』



 そういうことである。


 単純な筋力強化ではない。三半規管やら、各関節やら、なんなら眼球まで、全てを強化するのだ。ソゥドの力は意思の力、ある程度の制限、制約はあるが、なしとげるのだ。



 ◇◇◇



「よろしいですか、フミネさん。そして、フォルテ、ファイン、フォルンあなた方もです。ソゥドを磨いてください。そうすることで、個人的な力はもとより、甲殻騎を操る騎士として、強くなることが出来るのです」


「分かりました。一度できたことは二度出来る。いえ、出来るようにならなければならないのです。フォルテの隣に立つために、わたしはやります」


「フミネ……。わたくしもやりますわ!!」


「ぼくもやります」


「も、もちろんわたくしも、やりますわっ」


 全員が燃え上がり、それを見つめるメリアの目は優しかった。



「それともう一つ、これはわたくしからフミネさんへのお願いなのですが」


「なんですか?」


「先ほどのテツ・ザンコーを見て確信しました。わたくしたちは、先代聖女様のフサフキをしっかりと会得できていません。もしくは、衰えたのかもしれません」


「そんなこと」


「いえ、わたくしたちにはソゥドがあります。それ故にソゥドに頼りがちなのです。しっかりとした術理にソゥドを載せる。それが本来あるべき初代様が目指したフサフキなのです」


「ま、まあそれは分かります」


 凄い向上心だとフミネは思う。こんな状況だからこそ、こうありたいと思ってしまう。


「つまり、芳蕗の技を教えるというか、再確認したいってことですね」


「はい、お願い出来ますか」



「もちろんですよ。お代は、三食とベッドとお風呂ですね」



 フミネが放った言葉は、昔、かーちゃんに伝えたことのある、格好良いセリフ全集から引用されたものだった。


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