第12話 大公家の人たち




 と、高らかに宣言したフミネであったが。


「で、どうしたらいいの? フォルテ」


「無策ですわ!」


「フォルテ、格好良さっていうのはね、時には勢いが大切なの」


「なるほど勉強になりますわ。でも、やっぱり無策ですわ」


「ほら、二人で挑戦するんだからさ、一緒に考えようよ」



「はははは」


「ふふふふ」


 笑い声が交差する。大公とお妃である。


「いや、素晴らしい。フォルテは良い左翼を得たようだ」


「まったくですね。では提案いたします。フミカさんがフォルテ共に飛ぶと言うならば……」


 お妃が微妙に溜める。これがフサフキの名を持つ者の業か。


「強くなってください」


 そして、シンプルだった、


「場は用意いたしましょう。時間も稼ぎましょう。その間に強くなってください」


「あ、ありがとうございます!」


 自信たっぷりを感じさせるお妃の言葉に、フミネの心が温かくなる。


「それでは、閣下。差配を」


「お前も無策かっ!」


 似たような母娘であった。



 ◇◇◇



「まあどの道こうなるのであったろう。フミネ殿の心意気も知れた。なによりフォルテが飛ぶことが出来るのならば、大公家としてそれを支えるのは当然のことだ」


「中央と問題になるかもしれませんわ」


「知ったことかっ! フォルテ、お前が諭さなければ、今頃は連邦離脱宣言を出すところだった」


「勝てませんわ」


「分かっている、分かっているが、納得が出来るかどうかは別問題だ」


 政治的にも、そして親子としての心情としても、今回の婚約破棄騒動は深い傷を残していたのだ。


「痛快ではないか。フォルテが翼を得て活躍する姿を、大公国の皆に見せつけてやればよい。誰が文句を付けようとも構うものか」


 婚約破棄とフミネの登場。大公はふっ切れた。そして、突き進むことを決める。


「メリア、皆を呼べ」


「かしこまりました」


 お妃、メリアスシーナが扉を開けて出ていった。



「皆を呼ぶ?」


「ああ、フミネ殿に紹介したい者たちがいる。意味は分かるか?」


「一応、信用していただけた、ということでしょうか」


「その通りだ。私は君を信用する。フォルテが信用して、君の瞳を見て、信用した」


「……ありがとうございます」


「わたくしも勿論、信用していますわ」


「フォルテ、カブってるよ。はは、はははは」


 間違っていない。この家の人たちを頼ることは間違ってなどいないと、フミネは思った。



 ◇◇◇



 待機していたのだろう、お妃に連れられ数分後に彼らはやってきた。40代から50代に見える男女。そして15歳には満たないだろう、そっくりな顔と背丈をした、これも男女だ。


「フミネ殿、安心してほしい。彼らは私たちが信頼する者たちだ。さあ、ファイン、フォルン。彼女は当面の間大公家の客人となった、フミネ・フサフキだ。挨拶をしなさい」


「ファインヴェルヴィルト・ファイダ・フィンラントともうします。ファインとおよびください」


「フォルンヴェルヴァーナ・ファルナ・フィンラントですわ。フォルンとおよびくださいですわ」


「もしかして双子」


 フミネがぐるんと首を回してフォルテを見る。


「ええ、わたくしの弟と妹ですわ。12歳になりますわ」


「かわいいねぇ」


「ええ、ええ、その通りですわ!」


 可愛い扱いをされて少々不服そうな弟(ファイン)に目を向けて、フミネも挨拶を返す。


「フミネ・フサフキです。ファインくんとフォルンさんですね。よろしくお願いいたします」



「彼らは当家の家令と侍女長だ。先代より仕える、信頼出来る者たちだな」


 信頼、という言葉がこれほど意味を持つ機会もそうないだろう。


「セバースティアン・グラト・スーラントと申します。よろしくお願いいたします」


「オクサローヌ・シスト・ヒッターと申します」


 家令と侍女長と呼ばれた二人が挨拶をする。フミネも挨拶を返す。



 ◇◇◇



「ここに居る全員は、大公家において、家族であり、家族同然の者たちだ。フミネ殿の存在を明かすわけもあるまいし、そして、味方でもある」


「ありがとうございます。本当に、本当に助かります。今後ともよろしくお願いいたします」



 フミネは深々と頭を下げた。


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