第11話 フォルテの翼
ここで若干の解説だ。
そもそも第二世代以降の甲殻騎は複座型となっている。いや、複座を採用しているからこそ第二世代と言える。原初の甲殻騎が誕生してから20年程後、当時の大公国最強の騎士にして、最高の甲殻装備開発者、フォルフィナファーナ・フサフキ・ファルナ・フィンラント=フィヨルト女伯爵。彼女が開発した第二世代甲殻騎は、前席を主操縦者、後席を出力調整並びに操縦補佐とすることで、ごく希少であった甲殻騎適性者を倍増、いや4倍増させたと言われている。
ただし、誰もが騎士になれるわけではなかった。ソゥドの力、操作、適正などもあったが、何より両者の相性が甲殻騎の強さそのものに直結したのだ。故に様々な組み合わせが試され、中には伝説に残るほどの強さを見せた騎士たちもいた。しかし。
当時は前席騎士を前騎士、後席を後騎士と呼称していたが、次第と前騎士が上で、後騎士が下という風潮が生まれた。役割の派手さと呼称が故のいわれのない差別だが、女伯爵はそれを容認しなかった。開発者として正式に、前席を右翼、後席を左翼と呼称し、『両翼揃ってこその甲殻騎』と明確に発表したのだ。
ここに、得難いパートナーをして『両翼』と呼ぶ習わしが生まれた。
それは時に婚姻をも越えると言われるほどの繋がりと認識され、事実、年齢が近く性別が違う『両翼』が婚姻するということは、当たり前と捉えられるようになったほどだ。
さて、ここで話を戻そう。
フォルテの婚約破棄騒動だ。内情としては、王太子のわがままと中央派閥の政治的な意味合いをもった事件であったが、建前としては、フォルテの性格と、そして甲殻騎士としての不適正が理由とされている。
それから約ひと月。文音が現れた。フォルテの力を受け止め、左翼として中型の甲殻獣を倒すに至る適正。しかもフォルナの言では、「まだまだいけますわ」ときたものだ。
バチバチとヤバい状況になっている中央と辺境大公の間に、事態を一変、もしくは加速させるかもしれない存在が登場してしまったことになった。
「つまりは、大変マズいということだ」
大公がきっぱりと言い放った。
◇◇◇
「そ、そんなにですか」
「ああ。不適格騎士として婚約破棄をしたはずの辺境大公令嬢が、そのすぐ後にもう一方の翼を得てしまった。つまりは、今の段階では王太子側に非があるように見える婚約破棄が、辺境の策略と捉えることもできる、というわけだな」
「そんなことは問題にもなりませんわ!」
「フォルテ……、お前は何も考えていないようで、その実、考えているが、結局、考え通りにならないことが多い。今回もそれか?」
「失礼ですわよ、お父様」
暖かな親子の会話である。そしてフォルテの特性も発露されている。
「しかしフミネの存在が明るみになれば、暗殺、誘拐、一番あり得るのは中央からの召喚だ。いかんせん資格証も持たない平民。不敬ながら陛下も長くないという。ならば、新王はウォルトワズウィード殿下だ。どうなると思う?」
「ええ、『優秀』な平民を愛する殿下のことですから、フミネに目を付けるのは当然ですわ」
「ならばどうする」
置いて行かれている文音を他所に、親子の会話が続く。
「フミネ・フサフキ・ファノト・フィンラント。ですわ」
「養子にせよと!」
「えええーー!!」
さすがに文音がツッコミを入れる。いきなり養子とか、身を守るためとはいえ、それはどうなのか。
パンパン。
「とりあえずまとめましょう」
お妃が手を叩き、状況整理にかかった。
「フミネさんには、ここからいくつかの道があります。今のまま危機を避けるため平民として街に溶け込むか。士爵か男爵家あたりに嫁入りして、立場を得るか。そして、力を見せつけフォルテの片翼として戦うか」
どれも現実的で、そして最後の選択がもっとも難易度が高い。文音にもそれは理解できた。
◇◇◇
心配そうに、それでも微笑みを見せるフォルテがいる。文音、いやここまできたらフミネ・フサフキだ。フミネは考える。
『どれが納得できて、どれが格好良い?』
答えは簡単だった。
「どれくらいの猶予があるか分かりませんが、しばらくは客人としてここに置いていただけますか?」
「それは構わないが、その後はどうするのだ」
大公が尋ねる。
「わたしは芳蕗文音ではなく、フミネ・フサフキになります。力を付けます。フォルテの翼になります」
そうだ。フミネはフォルテを気に入っていた。婚約破棄された事情はよく知らないし、悪役令嬢みたいな風体だが、それでも彼女から真っすぐさを感じた。
そんな彼女が羽ばたく手助けを出来るなら。それは、間違いなく格好良い!
だから。
「わたしが、養子になれるかどうかは分かりません。ですが、フォルテの翼となります!!」
宣言した。
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