第7話 お話合いをしましょうよ




 とりあえず、文音とフォルテは話し合いの場を持つことにした。


 フォルテが言うに、文音が聖女であることはほぼ確定であるし、そして聖女であるということがバレると、大変ヤバい状況が待っているということだった。文音は震えあがる。


「悪いようにはいたしませんわ! なんと言っても、わたくしと共に戦った相棒なのですから、守るのは当然のことですわ!」


 と言ったフォルテは、オゥラくんの胸、なんでも色々道具が詰まっているらしい、からロープみたいなものを引き出し、倒した甲殻牛を縛っている。どうやら持って帰る気マンマンらしい。そりゃ、フォルテからしみれば甲殻騎で倒した初得物、しかも肉が美味しい甲殻牛となれば当たり前の行動だ。



 ◇◇◇



 で、話は戻る。


 聖女とはなんぞや? そこからだ。


 そこからフォルテは身振り手振りを交え、聖女伝説を文音に語ってくれた。まずは『救国の聖女』サヤーカの物語を、そしてたった2週間で世界の在り方を変えてしまった『暴虐の聖女』フミカ・フサフキの記録を。



 当然、文音は頭を抱える。かーちゃん、なにやってるの、と。


「それで、どうですの?」


「そうねえ、これ見て」


 文音が差し出したのはスマホに写った、フミカ・フサフキ、すなわち聖女様の画像だった。ただし、顔をボコボコにして腫らしているわけだが。


「これが、聖女、さま、なのですか?」


「分かんない。この人は私の姉で、芳蕗文香で、こういう人だってことくらいしか」


「家にある肖像画と随分と違っていますわ」


 フォルテが押し黙る、さすがにこれは、ってところだ。


「でも多分だけど、かーちゃん(姉、文香)が聖女なのは間違いないと思うよ」


「どうして言い切れるのしょうか?」


「『芳蕗の技』。あれは間違いなくそうだったから。聖女様から伝わったんだよね?」


「偶然ではありえない、ですわね」


「だね。ところでさ」


「なんでございますの?」


「わたしって一応、芳蕗の技の継承者なんだよ。200年? 練った? それともただ受け継いだ? もしかして、だらだらと衰えた? 確かめていい?」


 ぞわりとフォルテの背中に何かが流れる。文音は本気だ。


「ねぇ、興味があるんだ。わたしの芳蕗とこっちのフサフキ、どうなんだろうってさ」


「そ、それは」


「一応わたしは『芳蕗の技』後継者なんだよね。例え異世界だったりしても、どんなのかって、興味あるじゃない?」


 フォルテの脳裏に宿るのは、聖女伝説である。ソゥドの力に目覚めなくとも、その技でもって、当時の近衛筆頭を打倒したという言い伝え。



 ◇◇◇



「いざ尋常に!」


「わかりましたわ!」


 結局、文音に押し切られ、あくまで試技ということで立ち合いを了承してしまったフォルテであった。ただし、彼女から見た文音は、はっきり言って弱い。纏う力がほとんど感じられない。だがそれでも、相手は聖女である。『暴虐の聖女』の伝説を知るフォルテとしては、緊張を隠すことが出来ないでいた。


 彼我の距離は約5メートル。ソゥドのあるこの世界では、すでにクロスレンジのようなものだ。


「っし!!」


 まず文音が踏み込んだ。そしてその先あったのは、インパクト寸前のフォルテの拳だった。


「ふぎゃああ!?」


 緊急回避したものの、文音は地面に顔面から転がった。芳蕗の技の使い手として受け身もままならないとは、なんたる不覚か。


「だ、大丈夫ですの!?」


「ぐわあ。速すぎでしょ。何それ」


 少し鼻血を垂らしながら、悔しそうな文音であった。


「先ほど説明した通り、ソゥド力ですわ」


「うう、かーちゃんは避けたはずだったのに」


 文音は知らない。かつて聖女が捌いた(ということになっている)近衛筆頭よりも、今のフォルテの方が遥かに強く、容赦を知らないということを。



 ◇◇◇



「あ、そうだ。聖女って傷を治すことが出来たんだよね?」


「ええ、それは間違いありませんわ。光り輝く変わった靴で蹴りつけることで、怪我人を癒していたというお話ですわ」


「蹴るのかあ、まあらしいっちゃらしいけど、わたしの場合は」


 文音は自分の手に装着された指貫グローブを見る。先ほど聞いた話ならこれこそが自分の『守り石』ということになるのだろう。


「ものは試し、やってみっか」


「な、なにを?」


「どうりゃああ!」


 文音は右拳を自分の頬に打ち付け、そのまま後ろに倒れ込んだ。不幸にもそこには、岩が転がったわけだ。



「ぐあああああ」


 転げまわる文音。


「聖女って、なんなのですの?」



 フォルテの感想はもっともなものだった。


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