第3話 バトルフィールドで、ふたりは出会う
「何を訳の分からないことを叫んでらっしゃいますの!?」
フォルフィズフィーナ渾身の叫びであった。200年前の最大の氾濫の以後、フィヨルトの開拓は主に南へと進んだ。そこから色々発展があったわけだがそれは良い。問題は何故こんなヤバい所に女性が一人で『中型甲殻獣』を目の前にしているのかだ。
「とにかくお逃げなさい! その甲殻牛はわたくしがなんとかいたしますわっ!!」
と、意気込んで叫んだフォルフィズフィーナではあるのだが、彼女の甲殻騎適性は低い。当然、崖を降りるなどという運動は、言わずもがなだった。
華麗に崖を滑り降りるはずであったが、途中で足を踏み外す甲殻騎。いい加減名前で呼ぼう、フィンラントにおけるフォルフィズフィーナ専用甲殻騎、クラスとしては中型で操作性は無難中の無難。要は練習騎みたいなものだ。名前は『オゥラくん』。フォルフィズフィーナ手ずからの命名である。
そのオゥラくんが崖を転げ落ちる。
回転に巻き込まれてワヤワヤになっているフォルフィズフィーナと、それを見てどこぞのギャグアニメかと感想してしまう文音。そして置いてきぼりの甲殻牛という構図だ。カオス。
◇◇◇
ようやく崖の下まで転がり落ちたオゥラくんがゆっくりと、そして頼りなく立ち上がる。さすがにそうなると、甲殻牛も文音に構っている暇はない。幾ら弱そうに見えてもオゥラくんのほうが遥かに大きく、力強いからだ。
そして、フォルフィズフィーナが啖呵を切る。
「そこな甲殻牛よ。我が大公領において、いかなる人間をも害することを我がフィンラント大公家は許しませんわ!」
わざわざ、操縦席風防を開放し、ソゥドの力を声に乗せての大見得だ。
「キャノピー? 人が乗ってる? まさか、ロボット!?」
文音の驚きはそちら側だった。まさかのピンチにロボットが登場して、しかも操縦者は金髪ダブル縦ロールだ。テンションが上がりまくる。
「すっごい! すっごい! 頑張って!!」
「ええ、お任せくださいな!!」
いつ以来だろうか、純粋な声援を受けて、フォルフィズフィーナの心も燃え上がる。今ならやれるかもしれない。そんな思いが立ち上った。ソゥド全開、やるぜオゥラくんってところか。
「さあ、掛かってらっしゃいな。わたくしが焼肉にしてあげますわ!!」
焼肉というあたりが、フィヨルトの気風を感じさせるが、結果は。
どがああん!!
無残にオゥラくんは弾き飛ばされ、ついでに風防を開放していたフォルフィズフィーナも地面に叩きつけられた。
「ふふっ、中々やりますわね」
それでも不敵に立ち上がる、フォルフィズフィーナ。貫録すら感じる雄姿であるが、傍から見てみれば。
「なんでロボット降りちゃうの!? 意味あるの?」
文音の叫びももっともである。ロボットに乗って登場して、ロボットを降りてどうすると。
「心配ご無用ですわ! わたくしの『フサフキ』お見せしますわ!!」
「フサフキ!? え?」
突然自分の苗字、いや、一子相伝を姉と約束したはずの単語が、見知らぬ異世界で発せられたのだ。偶然? にしては響きが似過ぎている。
「まさかと思うけど、かーちゃん(姉、文香26歳)なんかやらかした?」
◇◇◇
「おうるあぁぁ!」
なんか高貴な人物が発してはいけない叫び声と共に、フォルフィズフィーナは甲殻牛の『ふところ』に飛び込んだ。どう見ても、甲殻騎を操るより速いし力強い。
そして踏み込んだ右脚と捻られた腰、それに連動した右肩が、したたかに甲殻牛に叩き込まれた。
『ブモオオオォォォ!』
数メートル押し込まれた甲殻牛の動きが止まる。
その隙を付き、フォルフィズフィーナは文音の元に飛んできた。
「何それ。確かにフサフキだけど、何であんなバカげたことを」
放心一歩手前の文音にフォルフィズフィーナは喝を入れる。それは自己紹介だった。
「わたくしは、フォルフィズフィーナ・ファルナ・フィンラント!! あなたは!?」
「あ、わ、わたしは芳蕗文音。もしかしたらこっち風で言うと、フミネ・フサフキ、かも……」
「フサフキですって!? あなたどこから来ましたの?」
「いえ、今はそれどころじゃないんじゃないかって。ほら、あの牛、こっち見てますよ」
甲殻牛が立ち上がり、明らかに敵対意識を持ってこちらを見ていた。
「仕方ありませんね。飛びますわよ」
「飛ぶ?」
フォルフィズフィーナがすかさず文音の膝裏と背中に手を入れ、跳躍した。
風にたなびく金のロールが2本と、長い黒髪が交じり合い、二人が空を舞う。
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