転生勇者に幼馴染を奪われたので、拾ったラノベで反射魔術師になって健気な王女と共に戦ったら、神を凌駕してしまった。【勇者殺しの反射魔術師(リフレクター)】
89.キリング・リフレクターVSキディング・ウィッチ(1)
89.キリング・リフレクターVSキディング・ウィッチ(1)
ガォン!
キャロルから放たれた〈ストーン・バレット〉が、地面に大穴を開けた。
これまでとは威力の桁が違う。
「ダメ……耐えられな……ダグラス、逃げ、て……!」
「逃げるわけがねえ! キャロ、なんとかするから、もう少し頑張ってくれ!」
罰則術式の痛みに耐えて蹲るキャロ。
ダグラスは近くにいたギルドの魔法士を呼びつけ、指示を出す。
「実験場の防御結界の出力を上げてくれ、物理・魔法の両方だ! 範囲は狭くていい、キャロを閉じ込める!」
「はっ!」
その間に、エフォートはサフィーネに耳打ちする。
「サフィ、ここは任せてくれ」
「わかった、気をつけてね。……兄貴、ミンちゃん! ついてきて!」
サフィーネは二人を連れて、駆け出した。
エフォートがキャロルに注意を戻すと、狭められた防護結界の中で、彼女の魔力がどんどん高まっていくことに気がつく。
「……これは」
それは一個人が持つとは思えない程の、魔力総量。
エフォート自身を上回り、あの聖霊獣にも匹敵するのではと思えた。
「
魔法士に指示を出し終えたダグラスが、エフォートに駆け寄ってく、る。
「悪いが力を貸してくれ」
「……ついさっきまで、俺たちを消そうとしておいてか」
「そうだよ。さっそく評議会議長に貸しを作れるんだ。おいしいだろぉっ?」
脂汗を流し余裕はまったくなさそうだが、それでも軽薄な口調を続けるダグラス。
冷静を保とうとしているのだ。
「魔防第三小隊、目標を包囲ッ!」
魔法兵団の一部隊が、魔術ギルド本部の正門からなだれ込んできた。
小隊長の指示で、連合魔法兵たちは苦しんでいるキャロルから一定の距離を取りつつ、包囲する。
「……おい、まだ手を出すなよ!? このまま落ち着く可能性もあるんだ!」
ダグラスは小隊長に向かって叫んだ。
その肩をエフォートがグイと掴む。
「ダグラス、時間が惜しい。俺の質問に簡潔に答えろ」
「えっ? お、おお」
有無を言わせないエフォートの迫力に、議長は頷く。
「キャロル・キャロラインは隷属魔法にかかっているな? 主人は誰だ」
「分からねえ。魔術ギルドの関係者で、親父と繋がりがある奴のはずだ」
「あの異常な魔力、なぜ模擬戦で使わせなかった?」
「隷属の主人に
「彼女は魔術ギルドが産んだ、強化魔法兵だな?」
「んな言葉、使いたかねえけどな。今はそうだ」
「お前が予想する、キャロラインに与えられた命令は何だ?」
答えにくい質問にも即答していたダグラスだが、一瞬だけ躊躇した。
「……僕を殺せ、だ」
しかしそれでも、今はエフォートに頼るしかない。ダグラスは正直に答える。
「虐殺の反射魔法士。お前という最強の魔術師が亡命してきた以上、奴隷紋を負った連合魔法士なんて表沙汰にできない存在は、もうこの国に必要ねえ。すぐに自死させるのももったいないから、最後に邪魔な僕を殺させてから、消そうってことだろうよ」
「……前議長バルカン・レイ。お前が追い落とした父親が、首謀者で間違いないか」
「ああ。こんなこと言えた義理じゃねえのは分かってるが……頼む。僕についてくれ。既に親父から接触があっただろうが、奴は信用するな」
真剣な眼差しで、エフォートを見返すダグラス。
自由公平を建前に、裏で政争に明け暮れる連合評議会で異例の若さでトップに立った青年だ。
その言葉を額面通りに受け取ることなど、危険過ぎる。
だが。
ガトリングガンによる破壊の暴風を前にして、キャロルの前に身を盾にして立ったダグラスの姿が、エフォートの脳裏をよぎった。
『無事か、キャロ……』
『ダグラス……?』
反射の魔術師は、サフィーネとともにその光景を目にした。
以心伝心の王女は既に走り出している。
「……損得勘定は苦手なんだ」
「は?」
一瞬視線を逸らしたエフォートの言葉を聞き取れず、ダグラスは聞き返す。
「ダグラス・レイ。最後の質問だ」
エフォートは顔を上げる。
「お前は承継図書の〈
「ソウル……なんだ? 〈
「術式を刻まれた魂を、本来あるべき状態に戻せる承継魔法だ」
その言葉に、目の色が変わるダグラス。
「……
知っていれば王女達への対応は違っていたと。
ダグラスは罰則に苦しむキャロルを見てから、エフォートの胸ぐらに掴みかかる。
「分かった、その反応で充分だ」
エフォートはドン、とダグラスを突き飛ばした。
ダグラスが、こちらが隷属解放の手段を持つと知りながら、それでも既得権益を守る為、サフィーネを排斥しようとしたのか。
それとも、正確な情報を掴んでいなかっただけか。
その答えが出て、エフォートは覚悟を決めた。
「聞け!
罰則術式の痛みに堪えるキャロルの前に歩み出る。
「……いや、
「な……に……?」
狭められた防壁結界の中で、キャロルは呻く。
「お前が命令を果たそうとするなら、まずはこの俺を倒す必要があるということだ。少なくとも俺と戦っている間は、罰則の痛みから逃れられるぞ」
「……!」
キャロルの目が見開かれる。
「安心しろ、お前に俺を破ることなど不可能だ。いつまででも戦ってや——」
「繋げ! 〈ディメンション・リープ〉!」
エフォートの台詞の途中で、その背後の空間に穴が開いた。
「——ッ!?」
「貫けぇっ! 〈クリスタル・ランス・ストライク〉!!」
巨大な水晶の槍先が、その穴からエフォート目掛けて射出された。
「リフレクト!」
耳障りな破砕音が実験場跡に響き渡る。
エフォートの反射壁が展開され、水晶自体に激突エネルギーを跳ね返しクリスタルを破壊していた。
魔法兵たちがどよめく。
「空間魔法で防護結界を抜いた!?」
「それでも反射だと……どういう展開速度だ!?」
結界内でゆらりと立ち上がるキャロル。
「至上の石よ! 神の意思より硬きものよっ!! 弾けろっ!〈ダイヤモンド・スプラッシュ〉!!」
キャロルがブンと振り回した腕から、光を弾く美しい鉱石が放射状に放たれた。
実験場に設置された魔晶とともに、防護結界が砕け散る。ダイヤモンドはそのまま空中でかき消えた。
「ばかなっ!?」
「これほどとはっ……! 退避! 総員退避だっ!」
ギルドの魔法士たちと、軍の魔防第三小隊が引いていく。
まるで予定されていたかのような、見事な引き際だ。
「なっ……待てお前らっ! く、もうヤロウの手が回ってやがったか」
「問題ない、むしろ邪魔が入らなくていい」
吐き捨てるダグラスに、エフォートは呟く。そして。
「出し惜しみはしない! 爆ぜろ〈グロリアス・ノヴァ〉っ!」。
「無駄ぁっ! 〈ディメンション・ウィンドウ〉!!」
放たれた戦略級大魔法は、キャロルが大きく開いた空間の穴を通り抜け、頭上からエフォートとダグラスに浴びせかかった。
「うおあっ!?」
「落ち着け、ダメージはない!」
慌てるダグラスだったが、破壊対象識別式の爆発魔法はエフォート達を傷つけることはない。
だがそのエフォートの頬を、冷汗が一筋流れ落ちた。
「……やはり本来の魔力なら、魔石なしで空間魔法を使えるか。
逡巡するエフォートを、キャロルはスッと指さした。
「〈ストーンバレット〉!」
ギィン!
単発の魔法が撃たれた。
反射を抜かれないよう、エフォートは体表面に張った反射壁で弾き返す。
だが胸に当たる寸前で反射したはずが、僅かに衝撃を受けてバランスを崩しよろめいた。
「レオニングっ?」
「騒ぐな議長。……演算能力も上がっているか、厄介な」
万能と思われた戦略級魔法は届かず、反射も破られたわけではないが、これまでのような余裕はない。
「……ラーゼリオンの悪魔ぁっ!」
キャロルは泣きながら叫ぶ。
「そのまま、ダグラスを守ってろ! そうすればキャロはお前と戦えるんだ! お前さえ、お前さえ殺せばキャロはっ……またダグラスと一緒にいられるんだからぁっ!!」
「まったく……俺に少しの得のない話だなっ!」
空中に無数の空間の穴が開く。
エフォートは同じ数の反射壁を同時に展開した。
***
(ち、何をやっておるレオニングめ。
男が内心で吐き捨てた時、観測所にタリア・ハートが衛兵をつれて飛び込んできた。
「議員の皆さんっ! 議長お抱えの魔法士が暴走しました。ここは危険です! 避難しますから、私についてきて下さい!」
タリアの誘導に従い、議員たちと研究専門の魔法士たちは、移動を始める。
「? どうされました、議員も早く避難を」
(……このまま残るのは、さすがに不自然か)
「ああ、分かった」
「急ぎましょう、議員が最期です」
タリアに声をかけられた男は、やむなく懐に入れた魔晶から手を放し、他の議員たちから遅れて移動を始めた。
「……ぬ?」
男はタリアと衛兵一人に先導されて避難したが、人気のないギルドの建物内部へ誘導されていることに気づく。
「待て、ハート副議長。どこへ連れていくつもりだ」
「正当な裁きの場へ、ですよ。ジニアス議員」
先を歩くタリアの足が止まった。振り返ると同時に。
「風よ切り裂け、〈ウインディア・ディザスター〉!」
「ぬうっ!? 気流よ!〈ガーディアン・ストリーム〉!」
狭い廊下で放たれた、タリアの風魔法。
ジニアスは同属性の気流を起こす魔法でレジストする。
「なにをするっ!?」
「こちらの台詞です。今すぐ通信魔晶を渡して、議長暗殺の企てを認めるのであれば、命は保障しましょう」
ジニアスはギリッと歯軋りする。
タリアは形式上副議長とはいえ、議席数はたったひとつの吹けば飛ぶような、八都市最小のサバラ代表でしかない。
第二都市ラーマの権力を使えば、いくらでもその発言を封じ込められる。
だが物証を抑えられるのだけはまずかった。
万が一ダグラスが生き残り、物証が渡ってしまえば、ジニアスの立場でもただでは済まないからだ。
「……落ち着き給え、ハート副議長。いったいどんな勘違いをしているのか知らぬが、ワシに何も疚しいことはない。このような暴挙、この後でサバラがどんな扱いを受けてもよいのかな?」
「やましいところがないのなら、身体検査を受けてもらいましょう。まさか暴走している
余裕のある態度でタリアは、衛兵の一人を促す。
異様に体格のよい衛兵は、剣を突きつけてジニアスに歩み寄ってきた。
(ちっ……魔法戦で小娘に負けるとは思わんが、この衛兵がやっかいだ)
タリアとジニアスは、互いに軍の魔法兵に勝るとも劣らない魔法戦技術を持っている。
おおよその実力は互角だろう。
だがそこに、近接戦闘職が加わるとなれば話は別だ。
魔法の援護を受けての近接戦、または剣士に守らせての上級魔法などコンビネーションを使われれば、ジニアスに勝ち目はない。
「ふっ… …おい衛兵。貴様、所属は軍ではなく評議会だな?」
「は?」
話しかけられた衛兵は、ジニアスが突然何を言い出したのかと反問する。
「貴様も馬鹿でなければ、ラーマとサバラどちらにつけばいいか分かるだろう。議長暗殺の企て? 暴走魔法士に繋がる魔晶? 仮にその女の戯言が事実だとしても、そのような危険な企みを、何故ワシ自らが行う必要がある? 実行犯はいつでも切り捨てできる者にやらせるに決まっておろう。つまり、ワシは証拠など持っておらぬ」
蓄えた髭を指先で摘まみ、ジニアスは笑う。
「証拠もなく、議員に魔法を撃ったタリア・ハート。そのような者に従えば衛兵よ、貴様も降格では済まぬぞ?」
「……と、言いますと?」
大柄な衛兵は首を傾げる。
察しの悪い男だとジニアスは苛ついた。
「クビだ。懲戒処分だ。もう議会関係の職はおろか、軍にも入隊できぬと思え、貴様!!」
まったく響いてない様子の衛兵に、最後は恫喝するように怒鳴りつける。
ジニアスは衛兵の構えた剣先が僅かにブレた、気がした。
(今だ!)
「〈ガスト・プレッシャー〉!」
ジニアスは無詠唱で使える最大威力の風魔法を行使し、突風を衛兵に叩きつける。
後ろのタリアごと、壁に叩きつける威力はあるはずだった。
「……暑くないので、べつに扇いでもらう必要はありませんよ? ジニアス殿」
カラン、とサイズの合っていない衛兵の兜が、風に煽られて床に転がった。
「貴様っ……!?」
ジニアスはその浅黒く、明らかに魔物の血が混じった顔に見覚えがあった。
模擬戦の前に訪れたサフィーネ王女たちの控室にいた、
オーガの力を持ってすれば、低級な風魔法などで吹き飛ぶはずもない。
「な、なぜだ!? 貴様らには便宜を図ってやると……!」
「ハアッ!」
ギールは、ジニアスの戯言を無視して剣を横薙ぎに一閃する。
議員の礼服を切り裂かれ、ジニアスの懐から魔晶が転がり落ちた。
タリアが語気を強めて詰め寄る。
「もう言い逃れはできないぞ、ゾルタ・ジニアス議員! お前が直々に動いていたのは、それだけキャロル・キャロラインの存在が、国家を揺るがす最高機密だからだ! さあ、今すぐ彼女の暴走を止めろ!」
ギールにも剣を突きつけられ、立ち尽くしているジニアス。
だがやがて、肩を震わせ始めた。
「……くくく、ははは……」
「なにが可笑しい?」
「これが笑わずにいられるものか。ハート副議長よ、実はこの魔晶は不良品でな。捨てようと思っていたところだ」
「何っ?」
タリアは、慌てて転がった魔晶を拾い上げる。
魔力を流し込んでも、一向に起動する気配がない。
「くっ……
「その通りだ。魔晶は常に起動していた。今頃はもう一つの魔晶がこちらの会話を聞いて、主導権を確保している! もうそんな石、なんの証拠にもならんぞ! ふははははっ!」
してやられたと、顔を歪ませるタリア。
ジニアスはさらにニヤリと笑う。
「なあ、ハートよ。貴様もルトリアの独裁には腹に据えかねるものがあるだろう? ワシにつけ。悪いようにはせぬ。都市連合の機密とダグラスの小僧。この二つを処分した後で、
「……そして、ルトリアの独裁を阻止すると?」
「そうだ」
「それこそ笑わせる。ギール君」
ドゴッ!
「がふぅっ!」
ギールの拳が、ジニアスの腹に深々と突き刺さった。
「その為にまたルトリアの前議長と組むなんて、意味が分からないわ。それにキャロライン……人を駒のようにしか考えないお前たちの味方になるなんて、絶対にありえない」
「ぐ……貴様、こんな真似をして、後悔するぞ」
「後悔するのはそっちよ。動いているのが私たちだけど、思わないことね」
「まさ、か」
ジニアスは倒れ、気を失った。
***
「使えない男だ、ゾルタ・ジニアス」
壮年の男が、実験場からやや離れた高い建物の上で、魔晶を手にしている。
その視線の先には、凄まじい魔力を噴き上げて睨み合う魔術師と魔法士がいた。
人族の視力ではおよそ見えぬはずの距離で、彼は正確に状況を把握している。
「……来たか」
だからこそ、建物を駆けあがってくる三人の足音にもいち早く気が付いた。
「見つけましたわ、バルカン・レイ」
屋上に姿を現したのは、銃を構えたサフィーネと、剣を構えたエリオット。そして後方で
バルカンは屋上の縁に腰掛けながら、薄く笑う。
「なんのつもりかな? 殿下。話が違うではないか」
「……奴隷解放を謳いながら、隷属魔法で支配した強化魔法兵なんて非人道的な研究をする。そんな貴方と手を組むなんて、絶対にありえないわ」
「ラーゼリオンが人道を語るか、これは愉快な事だ」
バルカンの嘲笑は、王国にいた頃の自分を罪人と考えているサフィーネを苛立たせた。
「貴方とこの場で議論するつもりはありません。今すぐキャロライン嬢への命令を撤回しなさい」
「何故だ? オレはお前達の価値を認めた。だから、
「繰り返します。私たちは貴方と組む気はない! 私は自由公平を旨とする、この国と組みたいのです! ……それに」
「それに?」
「貴方のように影でコソコソする男よりも、ともに戦場に立ち、その身を盾に愛する者を守ろうとするダグラス・レイの方が、よほど信用できますわ」
「……またあのガキか。まったく近視眼のガキはガキ同士、ウマが合うんだな」
バルカンは唾を吐いた。
サフィーネは叫ぶ。
「さあ、早くキャロライン嬢を止めなさい!」
「断ると言ったら?」
バン!
一切の躊躇いなく引き金が引かれ、サフィーネの
「なっ……!?」
だが次の瞬間、サフィーネは驚愕する。
「それが承継魔法かい? あまりこの国を舐めないことだ、サフィーネ殿下。ラーゼリオンとは魔法研究に投資している規模が違うんだよ」
一切の気配もなく発動した魔力障壁が、バルカンの目の前で銃弾を停止させていた。
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