90.キリング・リフレクターVSキディング・ウィッチ(2)

 バルカン・レイは些細な収賄容疑で、自分の息子に告発された。


 八都市を纏めた親の後を継ぎ、評議会を組織し初代議長となったバルカンの権力体制は、本来ならその程度で揺らぐことはない。

 だが実の息子により非常に周到に、執拗に、そして陰湿に準備された数々の疑獄の罠は、彼をその職から追うことに成功する。


 大陸西部八大都市連合国家。

 この国が神聖帝国ガーランドやラーゼリオン王国といった強大な国々に対し、奴隷解放という絶対正義の旗を掲げて渡り合い、利益を確保し、魔法という軍需産業で経済を潤し成長していくためには。

 バルカンはまだまだ自身が先頭に立ち、愚民たちを導いていかなければならないと考えていた。


 その遥か高みへと至る道を、下らない正義感と子どもじみた恋愛感情で邪魔してくれた、実の息子ダグラス・レイ。

 彼だけは、バルカンは絶対に許すことができなかった。


 ***


「対物理の結界!? こんな強力なの、実験場クラスの魔晶でもなきゃ……!」

「そんな物使わずとも、この程度は容易いよ。サフィーネ殿下」


 余裕たっぷりのバルカンに、サフィーネは舌打ちする。


「……兄貴ッ!」

「ほいきた裂空斬!」


 エリオットが飛び出し、空を斬り裂く豪剣が放たれた。


 ギィン!


「えっ……なんで!? 剣が止まる!?」

「やはりラーゼリオンは、王族でも野蛮なのだな」


 銃弾と同じく目の前で制止してしまった剣に困惑するエリオットを、せせら嗤うバルカン。


「開け、我が秘せし扉っ! 兄貴どいて!」


 アイテム・ボックスからそれ・・を取り出したサフィーネが叫ぶと、エリオットは横っとびに飛んだ。


「ほう、それが噂の『神の雷』か」

「なんで知ってんのこのジジイ!!」


 ガォン!

 ガォン!!


 体全体でライフルの反動を抑える独特の構えで、サフィーネはアンチ・マテリアル・ライフルを撃った。

 だがゲンダイニホンの世界では装甲車をも撃ち抜くと言われる対物ライフルの弾丸も、先と同じくバルカンの手前の空間で制止した。


「そんなっ……ん?」


 わずかに空中に浮かんでから、コンコンっと銃弾は屋上の地面に転がった。

 サフィーネはその銃弾を注視する。


(銃弾の先が、潰れていない……?)


「どこを見ているのかな殿下! 紅蓮の爆炎、焼き尽くせ〈フレイム・バースト〉!」

「しまっ……!」

「〈神聖防護プロテクト〉!! まかせてお姫様っ!」


 わずか二文節の詠唱で放たれた高威力の魔法から、素早く飛び出したミンミンが守った。

 屋上は爆炎に包まれ、建材の石がところどころ融解している。


「やるな、戦術級を無詠唱でレジストするとは。その幼子が、噂のラーゼリオン選定勇者が連れてきた奴隷仲間かな?」

「っ! ボクはもう奴隷じゃない!」

「噂、噂って……貴方どこまで、敵国の事情に通じてるの」


 炎が落ち着いて、再びお互いの姿が現れる。

 睨みつけているミンミンとサフィーネに、バルカンはまだ余裕だ。


「そんなこと秘密に決まっているだろう殿下。それより、膠着状態だな。オレにとっては好都合だが」


 バルカンはそう言って、振り返り魔術実験場の方へ目を向ける。


「舐めんなっ!!」


 その隙にエリオットが溜めていた力を開放し、奥義を放つ!


「今度こそ! 止められんなら止めてみやがれ! 裂空斬・竜破羅刹ッ!!」


 聖霊獣エル・グリーリアの角も砕いた、必殺の一撃。

 だが結果は同じだった。


「んな馬鹿な!?」

「騒がしいな君は。少し眠っていたまえ」


 パチン、と指を鳴らすバルカン。

 無詠唱で発動したのは〈スリープ〉の魔法だ。

 これまでも精神魔法に弱かったエリオットは、途端に膝をつく。


「ミンちゃん!」

「〈マインド・ガード〉!」


 だが今はミンミンがいる。

 天才回復術士の援護で意識を取り戻すと、エリオットは飛び下がって再び間合いを取った。


「あっ……ぶねー。サンキュ、ミンミンちゃん!」

「兄貴、剣を見せて!」

「えっ? ちょ、あぶなっ」


 サフィーネは飛びつくように、エリオットの持つ宝剣を凝視した。

 そして。


「分かった、その非常識な結界の正体」

「ほう。なんだと思うね」


 興味深そうにバルカンは問う。


「時間魔法。フォートはウロボロスの魔石と何日もかけて描いた魔術構築式で、時間遅滞タイム・アンカー時間加速タイム・アクセルを使った。貴方はその更に一歩先、時間停止タイム・フリーズまで使えるのね」

「根拠は?」

「私の銃弾と兄貴の剣。両方とも傷一つついていなかった。いくらラーゼリオンの宝剣でも、あれだけ破壊力のある奥義を止められて、ヒビも入らないなんてありえない。だとすればこちらを上回る力や硬さで止めたのではなく、運動エネルギー自体を消滅させたということ。時間そのものを止める以外に、そんな方法はありえない」


 サフィーネの答えに、バルカンは拍手した。


「見事だ殿下、野蛮と言ったのは訂正しよう。確かにこの建物の地下に、膨大な魔術構築式と魔力を蓄えた魔晶を設置している。それでも時間制止できるのは、限られた空間で僅かな時間のみだがな」

「盾として使うには、それで充分ということね」

「そういうことだ。だが分かったところで、どうする? 時間停止の結界は突破不可能だよ」


 バルカンは笑う。

 サフィーネは銃を構えなおして、エリオットに向かって叫んだ。


「兄貴、お願い!」

「えっ? なにを?」


 ポカンとする兄に、サフィーネはがっくり膝をつきそうになる。


「今の話、聞いてたでしょ……?」

「いや、難しい話してるなあって」

「エリオット王子! この建物に大きな魔晶があるから、それを破壊してきて下さい!」


 ミンミンが、くじけそうなサフィーネに代わって説明する。


「お姫様はボクが絶対、あのクソジジイから守るから! 早く!」

「ジジイは酷いな。これでもまだ六十代だ」


 バルカンは心外そうに漏らした。


「充分ジジイでしょ! いいから王子、早く!」

「お、おお!」


 急かされて、エリオットは屋上の出口へと駆けだす。


「行かせると思うか?」


 パチンと再び指を鳴らすバルカン。


「無駄だよ! ボクがいる限り睡眠魔法スリープなんて通用しな――」


 バタンとエリオットは倒れ、いびきをかき始めた。


「なっ……なん、で……まさ、か……」

「ミンちゃん!?」


 ミンミンまで頭を揺らして、ふらつき始める。


「魔力が……消えて……魔法が……使え、な……」

「まさか吸魔石!? 危ないっ!」


 気絶するように倒れ、石の地面に頭をぶつけそうになるミンミン。

 サフィーネは銃から手を放して駆けだし、すんでのところで幼女を抱きかかえた。


「吸魔石の存在を知っていたのに対策を怠るとは、まだまだ甘いな殿下」


 チャキッ


 バルカンが銃を拾い上げ、銃口をサフィーネの頭に突きつけた。


「……なんでそっちは、魔法を使えるの?」


 冷や汗をかきながらサフィーネは問う。


「簡単なことだ。吸魔石を発動させてから、俺はウロボロスの魔石で〈スリープ〉に戦術級クラスの魔力を注ぎ込んでいた。そちらの回復術士の嬢ちゃんも、魔力総量に自信があるなら同じ理屈で〈マインド・ガード〉を使えたはずだ。だが判断ができなかったな」

「く……!」

「吸魔石を使われても、剣士を連れ銃を持っていると油断していたか? 愚かなことだ。ならばその銃を敵に奪われた時のことも、考えておくべきだったな」

「おあいにくさま。承継魔法で作られた銃は、私以外のものが使うと暴発します」


 バァン!


 バルカンは空に向けて一発引き金を引き、またすばやくサフィーネに銃口を向けた。


「使えたが?」

「……嫌味な男。モテませんよ」


 ハッタリをあっさり見破って笑うバルカンに、サフィーネは眠るミンミンを庇いながら精一杯の悪口で応えた。

 バルカンは鼻で笑う。


「あいにく女に不自由はしていない。さて、こちらは決着がついたな。後は実験場の戦いを観戦することとしよう」

「待ちなさい。キャロライン嬢の命令を撤回しなさい!」

「……この期に及んで交渉か? 先に約束を反故にしたのはそちらだ」


 模擬戦の前、ジニアスとともにとともに控室にやってきたのは、バルカンだった。

 ダグラス提案の模擬戦で一定の価値を見せてくれたら、後はふざけた女魔法士キディング・ウィッチを暴走させる。そのどさくさでダグラスを暗殺するから、フォローをしろ。

 その代わり望み通り評議会の議席と、ダグラスが示すであろう以上の便宜を約束する。

 そう約束を持ちかけてきたのだ。


「交渉ではないわ、これは忠告。私たちは貴方に協力しない。なら強力な魔法士であるキャロル・キャロライン嬢は、都市連合にとって失うわけにはいかない手駒ではないかしら?」

「いや、お前たちはオレに協力する。特に虐殺の反射魔法士キリング・リフレクターはな」

「……キャロライン嬢のように、隷属魔法でも使うつもり!?」

「いいや。そんなもの使わなくとも、人は人を簡単に支配できるのだよ」


 ゴリッと銃口をサフィーネの頭に押し当てるバルカン。

 その意図を察して、サフィーネは顔色を変えた。

 バルカンは嗤う。


「ご明察。お前は人質だ、サフィーネ・フィル・ラーゼリオン殿下。反射の魔術師をオレの手駒とする為のな」


 ***


「〈ディメンション・リープ〉! 〈クリスタル・ランス・クルセイド〉!!」

「リフレクト!」


 エフォートとキャロルの周囲で、複数の爆発が同時に起こった。

 破砕音が重なり合って鳴り響き、砕けたクリスタルの欠片が雨のように辺りに落ちてくる。


「痛っ、痛たた! な、何が起こった!?」


 ダグラスは頭を押さえて目を丸くした。


「空間の穴全部、反射壁で塞いだのっ!?」


 キャロルはエフォートを睨みつけながら叫ぶ。


「正解だ。転移ゲートを通る瞬間には、魔法は魔法として発動していなくてはならない。構築式を自壊される反射破りは、その瞬間は使えないからな」

「小賢しいっ……ならこの数はどう!? 〈ディメンション・リープ〉!!」


 空を埋め尽くすほどの数の穴が、エフォートの頭上に開いた。

 だがそれでもエフォートの表情は変わらない。


「無駄だ。俺は聖霊獣エル・グローリアが召喚した星の数ほどの光の精霊ウィル・オ・ウィスプも反射させた。多重魔法の計算で、勝てると思うな!」

「やってみなくちゃ分からないでしょおっ!? 死ねぇ!!」


 再びの水晶の爆発が、夜空を埋め尽くした。


(……構築式無限マルチ・スクリプト並行展開・エクスパンド!)


 エフォートは夥しい数の反射壁を展開しながら、同時に新たな魔術構築式スクリプトを描き始める。


「……〈ナイトメア・バインド〉!!」


 水晶の槍の嵐を撃ち込んでいるキャロルの四方に、紫色の火柱が噴きあがった。

 そこから暗黒の鎖が飛び出して、キャロルに襲いかかる。


「なっ!?」

「闇魔法の鎖だ! キャロル、少し大人しくしていろ!!」

「うっさい! お前にできることがキャロにできないと思う!? 〈ダイヤモンド・スプラッシュ〉!!」


 ダイヤモンドの飛礫が、暗黒の鎖を迎撃する。


「なに!?」


 キャロルに魔法属性を封じる〈ナイトメア・バインド〉はレジストできないと考えていたエフォート。

 だが、エフォートも構築式を知らない〈ダイヤモンド・スプラッシュ〉の魔法は、次々と闇の鎖を砕き散らしていく。


(確かに、土属性魔法は物質具現の能力が高いが……どれだけ天才なんだ、キャロル・キャロライン!)


「だったらもう一度! 〈ナイトメア・バインド〉!」

「しつこい!」


 再びの闇魔法を、同じ〈ダイヤモンド・スプラッシュ〉でキャロルは迎え撃つ。


「同じ手は喰わない、リフレクト!」


 だがエフォートは、ダイヤが〈ナイトメア・バインド〉に命中する前にすべて反射壁で跳ね返した。

 高速で移動する闇の鎖を狙う無数のダイヤをすべて反射する。

 同時に凄まじい数の〈ディメンション・リープ〉の穴も塞ぎ続けており、エフォートが展開している反射壁の数は万を超えた。


「こ、この数を、こんなに精密にっ……くうっ!?」


 ついに〈ナイトメア・バインド〉がキャロルを捕らえた

 精神を束縛し、身体の自由を奪う。

 怒涛の如き魔法の嵐が止んだ。


「くそぉっ! 離せ!」

「ようやくか。手ごわかったぞ、ふざけた女魔法士キディング・ウィッチ。ある意味で転生勇者以上に強かった」


 エフォートはキャロルに歩み寄り、掌をかざす。


「キャロル・キャロライン。お前は奴隷のままでいいのか?」

「はっ?」

「俺が持つ承継魔法、〈魂魄快癒ソウル・リフレッシュ〉は 隷属魔法を解除できる。自由

になりたいと強く願え。そうすればその胸の奴隷紋は消えるぞ」


 キャロルの顔色が変わる。

 だが彼女は、自分が隷属魔法の支配下にあることを隠せという命令を受けていた。


「……何言ってんの? キャロは奴隷なんかじゃない。いいからもう殺せば? 魔法で負けたキャロにもう、価値なんかないんだから」

「あいにくだが、お前を殺すと後々で面倒なのでな」


 エフォートは振り返る。

 その視線の先にはダグラスがいた。


「……ダグラス」

「キャロ。今はもう、この男を信じるしか僕たちに道はない」

「それは、ダグラスが決めたこと?」

「そうだ」


 少しの沈黙の後、キャロルは小さく頷いた。


「……! うああっ!!」


キャロルの決意に反応して、罰則術式が発動する。

 エフォートは魔術構築式スクリプトを描き始めた。


「解放されたいと、意志を強く持て。……あるべき姿へ還れ、魂よ! 忌まわしき呪縛よ、消え去るがいい! 〈魂魄快癒ソウル・リフレッシュ〉!!」


 蒼い光の柱がキャロルを中心に屹立した、その時だった。


「お下がりください、議長っ!」

「なんだお前ら、今頃!?」


 撤退していた軍の魔法兵団・魔防第三小隊が再び、実験場後になだれ込んできた。

 ダグラスの前を塞ぎ、隷属解除の魔法に入ったエフォートとキャロルを包囲する。

 小隊長は叫んだ。


「吸魔石起動! 二人の魔力を吸い尽くせ!」


 魔法兵たちが構えた吸魔石が、承継魔法を発動してしたエフォートの魔力を吸い上げ始めた。

 昼間は吸魔錠の魔力許容量キャパシティを軽々と超えて見せたエフォートだったが、都市連合についてから僅か一日足らずの間に、戦略級大魔法グロリアス・ノヴァ二発を含めて、かなりの魔力を消費してきた。

 聖霊獣の角を使用しつつもさすがにリミットは近い。


「ちっ……!」


 このまま〈魂魄快癒ソウル・リフレッシュ〉を使い続けては魔力のロスが大きすぎると判断し、エフォートは魔法を中断した。


「ぐ、ぐああっ……あああ!」


 薄れかけた罰則術式の痛みに、また悲鳴を上げるキャロル。

 エフォートは叫ぶ。


「おいダグラス! 魔法兵こいつら吹き飛ばすぞ、構わないな!」

「……キャロすまねえ、少しだけ待ってくれ! おいテメエ、今すぐやめさせろ!」

「議長、申し訳ございません。ここはお引き下さい」


 魔法兵団の若い小隊長が、苦い表情でダグラスに告げる。


「引くかよ馬鹿が。お前たしか、トーラス・エルバ小隊長だな?」

「えっ」


 この国のトップが、エリート揃いの魔法兵団とはいえ小隊長クラスの自分の名まで把握していたことに、彼は驚く。

 ダグラスはそのトーラスの襟首を掴んだ。


「こいつぁ、ギャザリンク兵団長の直命だな。『軍は評議会の指揮下』っつー連合憲章を無視した行動。覚悟はできてんだろうなぁ?」

「……こ、これは評議会の決定と伺っています!」

「へえ? 命令書は」

「兵団長がお持ちです」


ダグラスの詰問に無理筋の回答を強いられ、小隊長は冷や汗を流す。


「トーラス、お前自身が受領もしくは確認したのか」

「い、いえ」

「ならその命令は偽物だよ」


 ダグラスは懐から特別な魔法印が押されている羊皮紙と取り出し、ペンを走らせる。


「連合憲章四条五項、特例二号を根拠に評議会議長ダグラス・レイが命令する。第三小隊長トーラス・エルバ、今すぐ魔防隊を下がらせろ!」


 そして略式の命令書を、トーラス小隊長に叩きつけた。


「し、しかし」

「そいつがありゃ、このクーデターの勝者がどちらであっても、お前たちの身の安全は保障されるよ」

「く、クーデター……」


 ダグラスの言葉にトーラスは唾を飲む。

 分かっていたことだが、評議会議長の制止を無視してでも行動しろという命令は、普通ではない。

 クーデターなどという失敗すれば死罪もありえる行動。

 だが現議長直筆の命令書の実物があり、その通りの行動をしたのであれば。

 その成否がどちらに転んでも、自分と部下たちへの非難は免れるだろう。


「……かしこまりました議長! 魔防第三小隊、ただちに作戦を」

「あああああっ! 〈転移テレポート〉!」


 キャロルが絶叫を上げ、耐えがたい痛みから逃れるように新たな命令・・・・・に従った。


「なにっ!?」


 ダグラスの前の空間に、突如光球が出現する。

 そして。


「作戦を継続したまえ、トーラス・エルバ君」


 光の中から現れた人影は、精悍な顔立ちの壮年の男。

 右手には空間転移の魔法を補助するつがいの石、そして左手にはまた別の魔晶を持っている。


「く……クソ親父ぃぃ!」


 憎々しげに叫ぶダグラス。

 バルカンはフン、と鼻で笑った。


「動くなよバカ息子が。ああレオニング君、君もだ」

「なに……まさか!」


 吸魔石に魔力を吸われ続けているエフォートは、嫌な予感に顔を歪める。

 バルカンは右手の魔晶に魔力を注ぎ込んだ。


「さすがに察しがいいな、虐殺の反射魔法士キリング・リフレクター。話が早くていい、これが証拠だ」


 影写魔晶が起動する。


「……貴様」


 そこにはサフィーネが吸魔錠で拘束され、エリオットとミンミンが眠る姿が映し出されていた。軍の兵士たちに囲まれ、剣を突きつけられている。


「安心したまえ。偉大なる承継魔導図書を持つ、大事な亡命王族だ。傷一つ負わせていない。……これからも、君が余計な行動さえしなければね」

「……!」


 エフォートは爪が食い込むほど、拳を握りしめた。

 バルカンは愉快そうに笑う。


「君たちとは仲良くしたい、少し大人しくしていてくれたまえ。……さあ、バカ息子。終わりの時だ」


 そしてバルカンは、一人の少女に冷酷な命令を下した。


壊れた女魔法士ブロウクン・ウィッチよ。もはや邪魔するものはいない、我が息子ダグラス・レイを殺せ」

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