廿楽あいかの昼食事情 2/4話
「いや、嘘下手か君は」
「っ!?」
急に廊下に連れ出されたと思いきや、開口一番がそれだった。
っていうか、あれを嘘だと見破ったのか……こいつ、何者だ……?
「あんなん、バレバレでしょ。何処からどう聞いても、廿楽さんの為に作ったって言ってるようなものじゃない」
「…………」
どうやらバレバレだったらしい。
いや、僕としては最高の演技だったと思うんだけど――って、そうじゃなくて。
「えっと……なんの用かな?」
そう、彼女は僕を無理矢理連れてきたのだ。ということは僕に話があるということなのだろう。
彼女、同じ2-Cのクラスメイトだったはず。名前は、えーっと……。
「さ、さい、さい……」
「斎藤雪音よ、武藤くん」
「あぁ――そうそう、斎藤さん」
一年の時に同じクラスメイトじゃない人はまだ顔と名前が一致してない。そもそも人の名前を覚えるのが苦手なのだ……あいかのことは一発で覚えたけど。色々インパクトがありすぎて。
黒髪の少女――もとい斎藤さんはニッコリと笑みを浮かべ、口を開いた。
「私と組まない?」
「はぁ……組む、とは?」
一体、どういう意味なのだろうか。
「端的に言うね。私は廿楽さんと友達になりたい」
「……ほぉ」
それはまた――珍しい。
冬樹の情報通り、彼女はうちの学年でも超有名らしく、クラスメイトはおろか同学年の誰とも会話している姿を見たことがない。まあ、近寄りがたい雰囲気出してるしね。
「私、事ある度に廿楽さんに話しかけているんだけど……なんだか、素っ気なくて」
「あー……」
まあ基本的に無表情だからな。しかも自分が興味ないことに関しては、特に反応が薄くなる。他の人からすれば、素っ気ないと思ってしまうだろう。
「そこで武藤くん……君を見つけたの」
「…………」
「君には私と廿楽さんと三人で話をしてくれる場所を提供してほしい。代わりに私は君の悩みを解決する……お昼ご飯、食べてほしいんでしょ? さっきの会話聴いてたけど、君が言いたいことはわかるよ。でも、説得するのには協力者が必要なんじゃないかな?」
「……ふむ」
それはまあ――確かに。
斎藤さんの提案は実に魅力的だ。僕は斎藤さんとあいかが話し合える場を提供する。斎藤さんは僕が昼ご飯を食べさせようとしている計画に助力してくれる。なんともWin-Winな取引だろうか。
普通なら即座に食いつくが――少し、引っ掛かる部分が一つ。
「それにしても……よく僕の名前、知ってたね? もしかして、クラスの顔と名前、全員一致してたり?」
「君も有名よ? 『シュガージェントルマン』として」
「……それは忘れてくれ。好きじゃないんだ」
「あら、いいじゃない。私は似合ってると思うよ?」
いや、僕が目指すのは立派な英国紳士だから、そんな半熟卵みたいな通り名で浸透してほしくない。
「それに、あっちも印象的だったからね……特に他己紹介の時」
「…………」
あぁ――やっぱりそうか。
要するにこの女子、あの他己紹介であいかに興味を持ったわけなんだな。
嫌な思い出だ。思い返すだけで、今でも苛ついてくる。
紹介しなくてもわかりきっていた、あいかのこと。発表時、クラスの誰しもが厭らしい笑みを浮かべながら、僕たちを見ていた。
――まるで「廿楽あいかをどんな面白い紹介をしてくれるんだろう」とばかりに。
あの時、みんなの期待を裏切るような紹介をしたものの……やはりこうして面白半分で関わろうとする輩はいるもんなんだな。
でも生憎だったな、斎藤。僕はそこまで阿呆じゃないぞ。
「あぁ、あの時か。あの他己紹介、思い返すと自分でも恥ずかしくて……」
なんて愛想笑いしてみせるが――これは罠だ。
ただの冷やかしならば、ここであいかについての悪口を言うだろう。その瞬間、「彼女、そういうの嫌うタイプだからさ。関わらない方がいいよ」って言って追い返すつもりだ。
さあ……お前はどっちだ、斎藤。まあ、十中八九で――
「えっ、そうかしら? 恥ずかしがる必要なんてないよ」
「……えっ?」
「むしろカッコいいと思ったくらいよ?」
予想外過ぎる答えに、思わずポカンとしてしまう。
カッコいいと……思っただって?
「……実を言うとね。私、廿楽さんの噂は一年の時から知っててたの」
――違う。
「なんとか話しかけたかった――けど、なかなか機会がなくて。だから、同じクラスになったことと……君を見つけた時はすごく幸運だと思って」
面白半分で近づいたと思ってたけど――この子は。
「君は他の人と違った。廿楽さんをバカにしたり嫌悪したりしてなかった――だからこそ、信頼できる人だと確信できた」
そこまで言うと……斎藤は深々と頭を下げてきた。
「私の我が儘だってのはわかってる。でも……それでも、あの子と話してみたいの。直接、話がしたい。だから――お願い!」
「…………」
しばらく、彼女の小さな頭を見つめていた。
もしかしたら、これは罠かもしれない。こうやって情に訴えることで彼女に近づき、影で笑うかもしれない。
その可能性は、十分あるはずなのに。
今さっきの斎藤の姿を見て――不思議と確信づいていた。
――この子は面白半分であいかに近づいてきたわけじゃない、と。
「……そんな頭下げないでよ。斎藤さん、悪いことしてるわけじゃないんだからさ」
――むしろ悪いことをしたのは、僕だ。
と言うと、斎藤はおそるおそる顔を上げた。
その表情は何処か不安げな表情を見せている。
「あー……その、さ」
さっき試したかのような言い方に罪悪感を覚えながら、ポリポリと頬をかく。
「いつがいい?」
「えっ?」
「そっちにも都合があるだろ? ……あいかにお昼ごはんを食べさせる作戦、いつがいいんだ?」
「――っ!」
歯切れ悪く伝える僕の返答を聞いた斎藤は――満面の笑みを浮かべた。
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