第7話

〈土曜日〉

 あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。

 め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。

 あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。

 め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。

 あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。は。は。は。ハ。

 め。め。め。め。は。は。は。は。は。は。は。ハ。ハ。ハ。ハ。

 あ。は。は。は。は。は。は。は。ハ。ハ。ハ。ハ。ハ。ハ。ハ。

 レ。レ。レ。レ。レ。レ。レ。レ。レ。レ。レ。レ。レ。レ。レ。

 ハ。ハ。ハ。ハ。ハ。ハ。ハ。ハ。ハ。ハ。ハ。ハ。ハ。ハ。ハ。

 レ。レ。レ。レ。レ。レ。レ。レ。レ。レ。レ。レ。レ。レ。レ。

 レ。レレレレレ、レレ、レレ、アレレレれ?ここは何処だ?半覚醒した視界にはさっきまでの世界とは対照的な見通しの良さ、類似的な透き通った地面と空っぽな地平線が伸びている。確かに界下は雨で曇り掛かるけどこちらはその余沢に預かれない。

 あぁそうだ。昇天する者は冥途の土産なのか晴天世界に一時誘拐されると先輩が言っていた。雨天世界と晴天世界の座標も一対一対応しているのだろうかと後ろまで眼球を飛ばす。

 そこには二年前に他界した姉が両手を合わせて立っていた。


 二年前、わたしの姉は殺された。犯人は特別仲の良いはずだった同級生と警察伝に知り、姉を鈍器のようなもので叩き殺した後自分は屋上から飛び降りたと言う。当時中学一年生で校舎を共にしていたわたしは身近で起こる最悪の事件を見過ごし、たった一人の家族、唯一の信頼出来る人を失った。

 姉はよく彼女が雨の日に出掛けたがると言って困っていた。姉は交友の広い根っからの晴女で行く先々が天気晴朗、一方でわたしやその友人と外出すれば不安定な雲行きとなり、満足に遊べないと嘆いた。わたし以上に粘着質な彼女は台風の日にも我が家を訪問し、危ないから止めてと流石のわたしも説得に加わろうが姉を外へ連れ出した。そんな調子だから幾ら温厚な姉でも喧嘩が絶えず、事件が起こったのはその延長線上にあるのではないかと悔いを馳せた。

 今回雨というフィルターを通して先輩に出会えたのは幸せ物語甦生の序章だと思っていた。だが恐らく姉を殺したのは先輩だ。あの風貌でこの地域に一人と分かった時点で脳裏には浮かんでいたが、根拠は無いし同族として信じることにしていた。わたしはそんな奴へ手を伸ばしデートと浮かれて盲目的な愛を届けていた。生まれて初めて雨に向けて憎悪の香りを放つ。名前を名乗らなかったのはそういう訳だ。思えば初登場の際、拠点とは離れた場所で対面したのは精神不安定なわたしを狙って態々近付いてきたのか?

 先輩の目的は何だったのか。恐らく「雨女だからと言って誰が何の気質かは判別出来ない」というのは無気質しか居なくなったあの地域を眼中に騙った嘘で、先輩にはわたしと日比谷の潜在性が見えていた。降下の目撃等により姉が晴女となったことに勘付いた上で、一向に第一身分化する様が見受けられない為、日比谷を晴天世界に派遣することでその存在を確かめた。日比谷殺害に手を貸したのは彼女の第一身分人生に配慮した姉が降りて来ることと、日比谷の堪忍袋が千切れて自爆を選ぶことを期待したから。世界を異とする姉への挑発、若しくは伝言役としてわたしを利用し尽くしたかった。善意から中々降下しない姉とわたしを引き合わせたかったとすればやり口が捻くれ過ぎている。要すれば姉とのコンタクト。文通を試みようと協調されなかったのだろう。

 姉は日比谷の協力者だった。しかし姉は肩入れというより同じく利用されたのだろう。他人を疑わない素直さ故に虐めの事態に気付かず、徒らに日比谷に世界の理を教えてしまった。第二世界でまで喧嘩するわたし達は停戦状態の姉達の一線を越えた訳だ。今もほら、目尻を丸めて悲痛に打たれる顔。生きているなら会いに来てくれても良かったのに。あんな奴より姉から未知の世界を知り得たかった。

 畜生、今すぐ戻って先輩を引き摺り込みたいけど、手遅れみたいだ。雨夜の太陽だった姉の手を掴み取ろうと、天上世界からは逃げられないのだね。

「兎天のことずっと見ていたよ」

 最期の最後に姉の言葉に照らされて良かった。今まで我が儘ばかりでごめんなさい。涙の雨を流して世界への憎しみを晴らします。次はどんな世界が待っているのでしょう。

 眼が消える。アァ、これが天上世か


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雨傘ブラリデート 沈黙静寂 @cookingmama

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