第5話

〈木曜日〉

 あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。

 め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。

 あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。

 め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。

 あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。

 め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。

 あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。

 め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。

 あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。

 め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。め。

「おかえりなさい」第二身分化した先輩が可視範囲内から仰向けに現れ、無人の賭けに勝利した。見遣ると先輩の遺体は騒がれること無くひっそりと消えていた。

「ただいま。痛かったよぅ」三回目であるはずの感覚に先輩は膝を震わせて立ち上がる。そろそろ一回目のことを訊ける仲だと思うが、ぜぇはぁ過呼吸するので後回しにした。

「降下して邪魔者の居ない地表世界をデートしない?」落ち着いた頃合いで先輩が発言する。

「あぁ確かに良いですね。今日は一切脇腹に力を入れず散策を堪能出来ますし」強く同意すると「今誰も居ないこの道に降下しようか」顔を擦り寄せて二度目の降下を行う。描写を省いていたけど、降下する際両脚の神経は皮膚表面から左右へと分散し、遅れて胴体や頭脳が過敏性を失っていく。第一身分で喩えるなら下手な看護師に半時間採血され続けるような気分になる。分かりにくいか。

 降りた先、やはり雨天世界とは空気の味が違うなと感じた。雨天世界同様、水滴が当たろうと肌や衣服は現象を頑固に否定するかのように乾いたままで、傘を差さなくとも全く不快感が無い。それどころか快感、これだけで気分が雲まで突き抜ける。

「気持ち良いいいいいいいいい」性格不相応に叫んでしまった。目撃リスクなんて顧みず、爽やかにじっとりと。はは、わたしは雨女だったのだ。歯を食い縛って俯瞰する日比谷と協力者に幸せなデートを見せびらかしてやろう。明日降下なり気狂いの第一身分化なりするかもしれないけど、取り合わなければ良いだけだ。ざまあみろばーか。

「君ってそんな大声出せたんだね」

「雨が降れば無敵になった気がするんです」日比谷が今度こそ消えた解放感からだろうか、地表世界住民の描く幸福な楽天地は確かに存在するのだと分かった。

 可愛げある地表世界の雨に傘を捧げ、日曜日までとは一変して思える景色を切り替えていく。一応常識人を装う為、コンビニにある置き傘を拝借して相合傘に利用した。仕方ないでしょう、幾らこの御身分でも強盗等と物騒な真似に出ないモラルはあるから。

「公園にはもうシートありませんね」「あの部屋立入禁止みたいですね」「学校付近は警察多いですね」「わたしの家に入るのも止めておきましょうか」「ここが先輩の自刃した場所ですか。写真に収めたい所ですけど」傘の影に潜みながら観光名所を順に巡った。別世界の住人として人々と交錯すれば、思春期症と言い捨てる凡人共は同情にしか値しなかった。

 夕刻、歩き疲れた二人は「そろそろ帰ろうか」示し合わせて外壁に凭れる。

「復帰する時は座標指定出来ないんですよね」倉庫で経験した内容をもう一度尋ねた。

「そう、さっきの辺りが拠点に対応する位置だから戻ろう」天へ向かって指を差す先輩と、通学路から離れるように足を進めた。

 復帰してガラクタと変わりない物共に背中を預ける。不純要素の無い雨の匂いに満ち足りる。さて、第二身分でも睡眠は必要になります。グッナイ雨天世界。

 あ、また訊き忘れた。

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