第24話 ただ存在していた

ある街の、ある高い電柱の上には死神が居る。

いや、死神だと霊が見える人たちには云われている真っ黒な霊体が

戦後からずっと佇んでいるそうだ。


ある一定以上の高さの建物の屋上や建築物、銭湯の煙突など

数年から長くて十年ほどの間隔で居場所を変え続け

今は、少し低い場所、その電柱へと降りてきたと

自分に話をした人は語っていた。


死神の姿をはっきりと見える人は

真っ黒なぼろきれの様なローブのフードをすっぽり被り

フードの中の真っ黒な輪郭しかない顔で

その電柱の下を行きかう人々を見下ろしているそうだ。


何をするでもないその死神は地元の霊能者の間では

「かみさん」

と言われ、触らないように不文律が出来ている。

時折、見える子供が石などを投げつけるが

報復で祟りを与えたりはしないそうだ。

だが、目的と存在理由が一切不明なので

見える大人たちは一切干渉も、拝みも

近くを通りがかっても見もしないらしい。


その街自体に戦後から何かが起こったわけでもない。

闇市が立ち、赤線地帯があり、やがてそれらは規制され廃れ

高度経済成長と共に発展して、バブル崩壊後に

シャッター商店街が増え、今は廃れるでも栄えるでもないという

日本のどこにでもある、それなりの規模の地方都市らしい歴史をたどってきた。


そして死神は、それを街の上から見下ろしていたそうだ。

何をするでもなく。

ただ存在していたらしい。


その話を聞いた後日、地元のある霊能者に

「かみさん」についての興味深い話を聞かされた。


「かみさん」が出現したのは戦後で

そして高いところから少しずつ低いところへと降りてきている。

高い位置にいる霊体は天国に近いそうだ。

そこから下へと降りてきているということはつまり

次第に現実世界に関心を増していっているのではないかと

何が「かみさん」の関心を引いているのかは

はっきりとは言えないがと、その霊能者は前置きをしてから

「死神だとすれば、大きな災厄か。戦争を待っているのかもしれない」

と言った。そして「かみさん」が下へと近づくほど

その時が迫っているのではないかと付け足した。


まったくの的外れな意見であることを願う。


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