第22話 霊を打ち付ける

俵先さん(仮名)というちょっと頭のおかしい人と

昔、バンドをやっていた時に知り合いだった。

ノイズポップ系のバンドをしていた彼は霊が見えると常々言っていて

そして憑依体質なので時折、取り憑かれるらしいのだが

そんな時にはとっておきの除霊法があると自分に言ってきた。


彼は霊に憑かれたと思った時は決まって

近所の数十年放置されたままの廃屋に散歩に行くんだそうだ。

そして

「念じて、霊を打ち付けるんだよ。そこの崩れた屋根に」

と意味の分からないことを自分に言ってきた。

「打ち付けるんですか?釘で打つみたいに?」

聞き返すと俵先さんは頷いて

「まさに。念の釘によって霊を打ち付けるんだ。

 そうしたら肩が軽くなる。君も一度やってみたらいいと思う」

とてつもなくイケメンで音のセンスも良いのにもったいない人やな。

と自分は思うくらいで、適当に聞き流していた。


最近、たまたま街で俵先さんに出会ったのだが

元々痩せていた以前の彼よりもさらにやせ細っていて

木枯らしに揺れる枯れた背の高い雑草みたいになっていた。

「どしたんすか……」

声をかけると、俵先さんはマスク越しに口を開き

「撤去された……僕が使ってた廃屋が更地に……」

すぐに自分も昔聞いた話を思い出して

「他の廃屋だとダメなんですか?」

「いや、やってみたけどダメだ……戻ってくるんだ」

と首を横に振った。


なすすべもなく、別れたが

ずっと彼のその後が気になって仕方ない。

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