第14話 挨拶にくる子供
弟の職場での話だ。
詳しく聞いたわけではないので
適当な描写が多くて申し訳ないが、短いのでご容赦願いたい。
彼の職場は児童養護施設である。
今や立派になり、とある国家資格を持つ彼は、専門家として
そこで「兄さん」の一人として働いている。
精神的に不安定な子から、いきなり殴られたり(職員は絶対に殴り返さない)
何人も同時に小さな子の遊び相手しないといけなかったりと
その職場に入る前は、
前髪を垂らした華奢なバンドマンだった彼は鍛えられ
顎髭のよく似合うマッチョメンになってしまった。
そんな彼の職場は三階あるコンクリート建てのまるで校舎のような古い建物だ。
レクリエーションルームや、事務所、食堂そして暖かなリビングのような部屋
さらに子供たちの寝室がそれぞれにあり
夜勤で泊まるための職員たちの個室もある。
寝るときは必ず自室にカギをかけて寝るのが、絶対のルールだと弟は言っていた。
人との距離の取り方を知らない子がいるので
鍵を開けたままだと、とんでもない悪戯をされたり
ものを盗まれることもあるらしい。
「俺ら職員は、大事な子供らに余計な気を起させんように
日々、細かいことにも気をつかっとる」
弟は日に焼けた健康そうな顔で自分にニカッと笑ってきた。
そんな学生時代暴走していたのがウソのように立派になった彼が
職場に勤め始めて最初の年のことだ。
ある日の休憩時間、職場のタフな先輩方から、夜勤の時に
絶対「一度は挨拶にくる」子供の話を聞かされた。
いつからその建物に棲みついているのか分からないが
その子は、夜勤の時に必ず一度は新入りの職員の顔を見に来るらしい。
入所しているどの子の顔にも似ていないその子供は
ここで働いているものなら必ず知っているほどの
有名な幽霊だそうだ。
対処方法は一つで、見かけても気にせず、追わないこと。
関わらないのが仕事を続けていくコツと教えられた。
弟はたまたま翌日が初の夜勤で、少し嫌な気分になりつつ
適当に聞き流した。
翌日の深夜、一人で巡回していると
その子は居た。人の気配を感じてライトで照らすと
廊下の遠くから、確かにその子は見ていた。
男なのか女なのかも分からない不思議な青白いパジャマ姿のその子は
弟をしばらく見つめると、廊下の奥へと消えるように駆けて行った。
知らされて無かったら追っていたところだが
弟は、そのまま何事もなかったかのように巡回を続けて
明け方、自宅に帰って普通に寝たらしい。
翌日、先輩方に話すと大変喜ばれて
「あの子は、自分が認めた新人職員には手を出さん。
気に食わんと散々怖がらせてくる」
と言われて、微妙な気持ちになったそうだが
結果的に、今に至るまでかなりの年数勤めているので
その幽霊の子供の見る目は正しかったようである。
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