第12話 大勢の気配

十年以上前に、泊りがけで京都に行った時の話だ。

時期は大文字の前後だと思う。つまり真夏である。

二十時過ぎくらいに京都北部から二条城の方へ

南下していくバスに揺られていた。

乗客は中ほどに座っている自分と最大で二、三人で

あるバス停で自分以外の全員がバスの前方から降りて行って

一人の半袖パーカーのフードを目深に被った痩せた男が乗り込んできた。

その男は、確か最後部の方の座席に座ったと思うが

その時、自分は凄まじく身の毛がよだっていたので

よく覚えていない。

男と共に、大量の気配がバスのあらゆるところに

乗り込んできていたからだ。


驚いて辺りを見回すが、誰も座っていない。

しかし居るはずのない人たちがそこら中に立っていたり

座っていたりする気配が消えない。

悪寒も止まらない。

いやいやいや、おかしいだろ。

今日大変で暑かったから、身体が疲れてるんだよな。そうだよな。

と必死に自分に言い聞かせているうちにバスは

さらに南下していき、いくつもバス停で停まったが

気配は消えずに、その間に一人、二人乗客が乗り込んできた。

そして、進み続けたバスは

某陰陽師を祀っている神社前のバス停で停まった。


バスの前部と後部のドアがプシューと開いて

いつの間にか前方の座席に移っていたフードの男は

運賃を払って、軽やかに降りていき

それとほぼ同時に、ガヤガヤと団体客らしき壮年の元気な男女が

大量に入ってきた。

いつの間にか、悪寒と共に不気味な気配たちは消えていた。


その後、泊まっているビジネスホテルに帰ってからは

とくに異変は起こらなかったが

今でもこの体験は謎のなままである。

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