第11話 わかってるニャン
ネットで捨て値で買った二十年前製とかのマルチトラック(録音機)に
ネックが半分腐っているようないつ買ったか不明なボロギターと
弟が自分の自宅に置いていって埃をかぶった
ミドルスケールの(弦の間がほどよく狭くて弾きやすいタイプだと思ってください)
ベースで適当な録音をして、たまにネットに上げている。
体調が良ければ、エフェクターをかけて調子っぱずれの歌をうたうこともある。
大体、しこたま酔っ払ってゲラゲラ笑いながら
いくつも音を重ねているので
翌朝、投稿したものを聞いて唖然とすることが多いが
時折、もしかして自分は天才なのか……?
とナルシズムに酔えるほどの曲ができることもあるのでやめられないのだ。
とはいえ、リズムトラックは十秒程度のループ(繰り返し)で
何の変化もないので、いくらベースラインでパターンをつけようとも
自ずと仕上がる内容に限界があり
どんなに自画自賛しようとも
リスナーからの評価はそれほど芳しくない。
こんな辺境の書き物を読むほど、ホラーに精通しているであろう
読者の方々は、もうこの話の方向性に気付いているだろう。
つまり、時折、自分が入れた覚えがない音が
入り込んでいる時があるのだ。
ボソボソと喋るような人の声や
クスクス笑うような声などである。
……とはいえ、そんなものは別に気にしてはいない。
元々の曲が基本的に大した内容ではないのだから
勝手に幽霊でも、生霊でも守護霊でも
一緒にコーラスをすればいいと思う。
そもそも録音が下手で音が悪いので、ただのギターノイズやマイクノイズが
そんなふうに耳にきかせているだけかもしれない。
むしろ、九割方、そっちだろう。霊現象なんてものはそんなに頻繁には起こらない。
というのが自分の基本スタンスなのだが
一度だけ、本当に不思議な音が曲中に入り込んだ時があった。
その音は、恐らくはギターの録音ミスで
録音を消す前に床にギターを置いたので
短くハウリング(音の反響)して入ったものだと思われるのだが
文字に直してみるとこんな感じである。
「キュイ……キューイィィィ(ハウリング音)……ィィィわかってるニャン……ィィィ」
ふざけてると思われるが本当にこうなのである。
一体何が分かってるニャンなのか
自分には永遠に分からないであろう。
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