第8話 ラブホと神社

友人の田中(仮名)さんから聞いた話だ。


彼の地元には、神社が二社ある。

その二社のうち、片方は、周囲を田んぼに囲まれた小山に建っていて、よく手入れがされ、地元の人間たちも正月には喜んで参拝に行く。田中さんも、正月の三社参りはまずはその神社から始めるらしい。

そして市内の大きな神社を、二社巡って新年の門出を祝うそうである。


自分はそう聞いた時に田中さんに

「地元のもう片方の神社には何でいかんの?」

とつい尋ねてしまった。彼は待ってましたと、それはもう嬉しそうに

「明らかに呪われてるんよ」

そう言うと、さっそく話しだした。


もう片方の神社は、先ほど説明した神社の場所から三キロほど離れた少し奥まった山中の頂上にあり、下界との間にとても長く広い階段を持つような、格式高そうな立地だった。

階段下の平地の周囲に氏子さんたちの家も並んでいて近くに団地が幾つも造成される前は

恐らくは、地元の中心部だったらしい。

地主の家も近くにあり、名家が集まっているような地区だったと田中さんは嬉しそうにしゃべっていた。

「でも、近くにラブホが建ってから何かおかしくなったって地元の友達が言っててな」

そう、田中さんは話をつなぐ。


そのラブホは、ちょうど山中の神社からまっすぐに伸びていく参道の入り口の手前を横切る狭い舗装された道路の向かい側に建っていてまるで山中からまっすぐに降りてくる神社の神気を吸い取るように開きっぱなしの正面門があり、田舎にも関わらずに何故かとても繁盛しているようである。

「俺、まずモテなかったからラブホとか縁が無くて、それに学生の頃は親の新年のお参りすら誘いも断ってゲーム三昧でそういうの碌にしてなかったんで、その神社が呪われているのも、ずっと気づかなかったんやけどな、大学から実家に帰省した……たしか、二十歳くらいのとき正月に暇だったのもあって、ふと思い立って、三社参りってのをやってみようかと閃いたんだよな」

田中さんはそう言って、亊の顛末を話し出した。


当時、学生で金もなく異性にもご縁がなかった田中さんはこの地味な人生の開運を賭け、それまでの二十年の人生でほぼ縁のなかった

三社参りというものをしてみようと思い立った。

とりあえず、まずは地元にある二社を一人で歩いて巡ろうとしたらしい。

そして、一社目は、先に説明した神社に行き、雰囲気も良く人通りも活気があり、地元の友達とも会って少し話せたりして楽しかったのでその勢いで、例の呪われた神社へも初めて行ったのだが、正月なのに人は居らず、氏子さんたちの家が左右に並ぶ

参道は新年なのに空気が重苦しく、終いには

その家々のうち、一軒に繋がれていた片目の飛び出た黒犬から

(月明かりだったが、確かにそう見えたらしい)吠えたてられて、殆ど半泣きになりながらも神社下の階段まで走ってたどり着き、何とか上り始めたそうである。


「百段くらいある長い石階段を上り出してからは、気持ちが楽になった。上りきった先の神社の境内は、神社の近所に住んでるらしきお年寄りたちが焚火をして集まっていて、見ず知らずの俺に気づくと"明けましておめでとうございます"って優しく声をかけてくれたりと、雰囲気は悪くなかった」

田中さんは苦笑いしながらそう言うと、その後について話し出した。新年の挨拶を返したりしつつ、神社に参った後、階段を下りていき、そして再び雰囲気の暗い参道へと戻ると

次第に肩が重くなっていったそうだ。

「そういうのにそんなに縁がなかった当時の俺でも、あ、なんか悪いのに乗られたなと思ったわ。あきらかに、ダメだなと、呪われたかなと」

ビビりながらも、歩いて実家へと帰っていくと次第に肩の重さそれ自体は解けて行ったが

その年は不運続きで最悪だったと田中さんは語る。

「たぶん、あの神社、呪われてるんやろうね。話したら地元の友達も同意してくれたし。それ以来、そっちには一度も行ってないわ」

自分はその話をきいてそれ神社ではなく参道が呪われているのでは?むしろ、ラブホから何か変なものが噴き出ているのでは?

などと、色々と疑問に感じたが、その場では、それ以上尋ねたりはしなかった。

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