第6話 木
自分は草木の名前にはトンと無頓着である。
子供のころ、もっと、自然に興味を持って調べたりしていれば
花言葉などを利用した、良い文章も書けたかと思うのだが
まあ、今更、無いものねだりである。
そんな自分が、家族と共に弟の友達の葬式に出た時の話だ。
まだ彼は若かった、二十歳で、前途洋々だったが
電車に轢かれて死んだ。
友人代表の弔辞は弟が読んだ。
葬式は日が暮れる前に厳かに執り行われた。
その葬式場は近くに、大きなグラウンドを二つ持っているのだが
その北の方に、運転する自分が
家族を待つ時間つぶしか何かでブラブラと行って待っていた時だ。
その片隅に、不気味な"木"が一本立っていた。
季節がいつだったか分からないが、それほど寒くは無かった時期だったと思う。
その"木"は薄汚れた紫とくたびれた緑という
何とも言えない色合いの葉っぱを大量に茂らせていて
まるで、存在すること自体を嫌悪するかのような
異様な雰囲気だったのを覚えている。
自分は、特に何も考えずに
チラッとその"木"を見上げた。
その瞬間、確かに見たのだ。
大量に茂った葉っぱの中からこちらを見下ろす。
真っ白な呆けたような人の顔、顔、顔。
一瞬唖然としたが、次の瞬間には元の葉っぱだけに戻っていて
何事もなかったかのように
また存在していた。
気味が悪いので、二度とそのグラウンドに近寄ることは無かったが
未だにその"木"については覚えている。
あれを何という木というのかは、不勉強な自分には一生分からないだろうが
その不気味な存在だけは頭の中にずっと残り続けるだろう。
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