呼称

俺は心の中で呟いた。

シンヤ、おい、シンジ、もう帰ろうぜ...!とか言ってくんねぇかな。横で困ったような顔して佇むシンヤにチラッと横目で合図を送るもダメだった。

そうだった。昔からシンヤはそこまで気が回らない。シンヤとは中学生時代からの付き合いになるが、空気が読めるほど鋭いやつではなかった。

藤島はさっきよりも俺に近付いていた。

顔をやたら近づけてくるあたり、俺的にやめてほしい。



「山吹、おまえよ、言わなくても分かってっと思うけどよ、ただの幼馴染がよぉ、彼氏持ちの女と仲良さげに喋ってちゃダメだろ...?」


俺は言い返した。


「...まぁでも、ヒナタとは大した話もしてないからさ...」


「ヒナタか...。おまえだけだよな。

ヒナタなんて、橘のこと呼び捨てにすんのはさ...そういうとこ、気に入らねぇんだよ」


「...いや、女子何人かは、あいつのこと、ヒナタって呼んでっけど...」


藤島は益々眉間にシワを寄せた。

最早、イケメンの定義からは外れる顔立ち。


「黙れ、底辺陰キャ。大体がよー、

目障りなんだよ、おまえ。

カースト最底辺のおまえが、かわいい顔した優等生の美少女と喋れる機会をなんでか与えられているってことが、そもそもムカつくんだ」


「つまりな、俺が言いたいのは、

こういうこと」


「距離を置けよ、おまえ」


「幼馴染、橘ヒナタと距離を置け」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る