依頼

「...シンジ!明日の朝なんだけど、

家で待ってるからね!いつもみたく呼びに来たよね...」


「...」


俺は返答に困り、黙っていた。

ヒナタは尚も続けて言った。


「お弁当だって、作ってきてあげるんだから

持ってこなくていいんだからね...」


そう念を押すように言われ、俺は適当に

「朝、おまえん家だけど行けたらいくかな...俺なんか最近、朝早く起きんの辛いんだよね。俺は別に遅刻してもいいけど、おまえ的には遅れちゃまずいから藤島とやらと一緒に登校すりゃいいだろ...」


俺は藤島という言葉を小さく言った。

何故ならば、幼馴染、橘ヒナタのすぐ背後に、藤島の姿が目に入ったからだ。


「橘!俺、これから校舎の外周を仲間と走り込みするんだけどさ、あと一時間くらい待っててくれよな!部活途中で抜けっから、そしたら一緒に帰れるからさ...!!」


「うん...分かった。それまで図書館で勉強しとくね...」


「待たせてわりぃなぁ。

県大会終わったら、部活なんかちゃらんぽらんにやって、てか、練習だりぃから、いっそのことふけちゃって、放課後はおまえとイチャイチャすることに使えんだけどなぁ。。」


橘!とヒナタのことを藤島のやつが呼んでる

あたり、まぁ、まだ深い仲ではないのだろうが、、


それにしてもしゃくだった。

俺の目の前に来て、会話して、そんで、

奴は!藤島の奴は、ヒナタの髪の毛に手を伸ばしたんだ。


「おっ、ハーフアップのおだんご、めっちゃかわいーじゃん!

俺、その髪型好きだなぁ!いつものロングも好きだけど、今のがさらに色っぽくなって好きだ」


くそっ...、俺の目の前でヒナタの、巷ではおくれ毛というらしいが、その髪の毛に触れていやがる...!


離れろ、触るなと言いたいところだが、

俺にそんな権利はないし。。


俺がムシャクシャしてると、せめてもの幸いだが。

ヒナタは特に髪の毛を褒められたことに対して何も言わずに、


「待ってるから」と藤島に告げ、

その場から立ち去ろうとしてた。


「部活頑張ってね」と続けて言って、藤島のやつから離れてくれた。

ヒナタが図書館の方向に歩き出して、

俺らから見えなくなった時。


俺は安堵のため息を漏らした。

だが、すぐに緊迫が走る。

今度は、藤島のやつが俺の肩に右手を

置いたんだ。さっきまでヒナタの髪の毛を撫でてたその手を。あからさまに俺に対して使ったとみえる。


これは俺なりの反抗だった。


「部活...行かないのかよ?走り込みするんだろ??」


「はん。走り込みなんか、かったりぃから、

わざと時間を潰してから行くんだよ。

俺はてめぇに用事があるんだ」


「...?俺に用事?カースト最高位のイケメン様が底辺インキャの俺になんの用だよ...?」


「おっ。自分の立ち位置をよく理解してやがるじゃねぇか...!なら、話が早いな。

あのさ、おまえさ、前々から気になっていたんだけどよ、橘のなんなんだよ??なんで

おまえらはそんな親しく喋る仲なんだよ?」


「おっ、幼馴染だよ...」


この、キーワードを口にした途端、

藤島のやつは眉間にシワを寄せた。

そのせいで、男前の顔立ちが、台無しになる

一歩手前まできていた。


「幼馴染ぃ?いつからだよ?」


「よ、幼稚園の頃からだよっ...」


隣にいる、シンヤは黙ったまま、

俺らの会話を聞いていた。


できるなら、シンヤにこの場の張り詰めた空気を緩める役割を担ってほしいが、シンヤは

気の利いたことも言えずに、沈黙していた。



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