Light My Fire

 私は愚かだ。


 自分の全てを投げ打てば、これから先の未来すらも捧げれば、彼を救えると信じていた。


 何度挫けそうになっても、何度地獄を見せられても、次こそは必ず救うと自分を奮い立たせ、前に進んできた。


 彼が救えるのなら、彼が幸福に生きられるのなら、それで満足だ。


 彼が幸福に生きる未来こそ私の幸福だ。


 例え、彼の隣に私がいなくても、私以外の誰かでも、彼を救ってくれるのなら、彼を幸せにしてくれるのならそれでいい。


 そう思っていた……はずだった。


 『天城総悟は道明寺縁のことが好きだ』。


 その言葉を聞いた瞬間、私の心は、信念は、あっけなく揺らいだ。


 違う。揺らいでなんかいない。きっと、初めからそうだったのだ。


 彼と共に生きる未来。彼と共に生きる幸福。他の誰でもない、私が天城総悟の生涯のパートナーでありたい。


 楽しいことも、辛いことも、嬉しいことも、悲しいことも、一緒に経験したい。思い出にしたい。


 どれだけ自分を取り繕い、言い聞かせても、結局のところ、それが私の願い欲望であり、行動原理だった。この溢れる想いが答えだった。


 嬉しくて嬉しくて胸が張り裂けそうだった。今すぐにでも身を乗り出して、その唇を奪いたかった。


 そうしなかった……できなかったのは、こんな時に限ってガタの来ている体と、歓喜に打ち震える心とは裏腹に私の中の冷静な部分が私に告げていたからだ。


 次はない。


 彼が私に告白してくれたことは一度もなかった。私を好きだったことは一度もなかった。


 次に繰り返した時、天城くんが私を好きになってくれる保証はない。これまで通り友達で終わるかもしれない。誰か他の人を好きになるかもしれない。


 嫌だ。嫌だ。嫌だ。


 そんなのは、嫌だ。


 彼の未来に私が必要ないなんて、嫌だ。


 私は天城総悟が欲しい。絶対に誰にもあげない。だって、私は天城総悟のことを世界中の誰よりも愛している。


 だから終わらせる。これで。この繰り返しで。過去これまでを終わらせて、未来これからを手に入れる。


 元々、手段を選んでいるつもりもなかったけれど、もうなりふり構っていられない。


 天城くんの告白を無かったことにしないために。この奇跡を夢で終わらせないために。


 私はこの繰り返しに覚悟を決めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る