Be a Dream

 夢を見た。


 通学路、あるいは休日の街中で、あなたの隣を歩き、取り留めのない会話をしながら、共に笑う夢。


 些細なことで喧嘩し、ちょっとした言い合いになるけれど、いつの間にか褒め合い合戦になっている馬鹿らしい夢。


 苦手な癖に二人で感動系の映画を見に行って、二人してボロボロに泣いて、目を腫らしながら感想を話し合う夢。


 受験勉強の息抜きに行った遊園地。『ほどほどに』なんて口にしながら、次の日も動けなくなってしまうくらい遊んでしまう夢。


 そのどれもが輝いて見えた。眩しくて目が灼かれてしまいそうなほど。


 些細な違和感。微々たる誤差。


 気づかなければ、享受することの出来た幸福を、他でもない私の記憶が否定する。


 この時の彼はこうだった。あの時の私はこうだった。雨が降っていた。人が多かった。日が暮れていた。そもそもこんなことはなかった。


 彼を救うために得たモノ全てが、見えているモノを幻想だと証明する。私の努力が、幸福に浸ることを許さない。皮肉にも程がある。


 夢を見る。


 血を流すあなた。痛みを堪えて笑うあなた。苦しみを隠して笑うあなた。熱を失っていくあなた。力なく私の手を握るあなた。安堵するあなた。私の腕の中で眠るあなた。もう目覚めないあなた。


 心と体の芯まで染み付いた感覚が精密に再現する。今は存在しない過去、けれども決して夢ではない、私しか知らないかつての光景絶望を。


 夢であればどれだけ良かったのだろう。これまでの努力が徒労に終わってもいい。ここに至る全てが途方もない夢だったなら、と強く願わずにはいられない。


 変な夢を見たのだと、ありふれた話題の一つとして彼に話せたら、どうなっていただろう。


 きっと彼なら、面白そうに笑って『大丈夫』だと言ってくれる。そして私はその根拠のない自信に満ちた言葉を聞いて、胸をなでおろす。それだけでこの夢は日常の一コマになり果てる。私の知らない日々がまた始まる。


 そうなってくれれば良かったのに。


 もう何度見たかもわからない地獄をまっすぐ見つめながら、そうはならなかった未来へ想いを馳せる。意味がないことだとわかっているけれど、そうしないと私はもたなかった。


 何度地獄を見せられたとしても、私は壊れるわけにはいかない。木偶の坊になるわけにはいかない。そうなったら、天城くんを救う機会を失ってしまう。


 だから、私はいつものように彼の亡骸を抱きしめて、自分を奮い立たせるように言う。


 ――絶対に助けるから。


 終わりエンディングはすぐそこまで来ている。

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