第431話 女商人は、無残な光景を目の当たりにして
沖合に停泊する船に白旗が上がり、戦闘は短時間で終結した。しかし……ミサイル攻撃の威力を目の当たりにして、アリアもアウグストも言葉を失った。
「アリア陛下。これは……まさか、これほどとは……」
「そうですわね……アウグスト陛下。やはり、安易に使っていいモノではありませんわね……」
あれほど連日アウグストら魔国上層部を悩ませてきた敵艦隊が、その視界の先で無残な姿をさらけ出していた。多くが沈み、まだ浮かんでいる船もいつ沈んでもおかしくないような損傷をさらけ出しているのが見える。
もちろん、主砲を首都に向けられた以上、ためらうわけにはいかなかったのだが、それでも二人の胸には罪悪感が芽生えた。もしかしたら、やりすぎたのではないかと。
「そうなると……やはり、兵器の管理をどうするか。きちんと決めておく必要がありますね」
「それについては、同意しますわ。魔国を……アウグスト陛下を信用しないわけではありませんが、誰でも魔が差すことは有りえる話ですからね」
アリアはそう言って、改めてどちらの国にも属さない『ルーメンス商会』に委ねることを確認した。使用に当たっては、いずれかの王の命令ではなく、両国の代表たちの合意によってなされるべきだと。だが……アウグストは懸念を示した。
「力が強大すぎると思うのです。ルーメンス商会に委ねた後、彼らが暴走しない保証などないと俺は考えるが……」
ルーメンス商会のトップは、ハルシオンのケヴィン王子である。アリアの従弟でもあり、アウグストにしてもいずれは義兄となる人物だ。それゆえに、裏切らないと信じたいが……
(そういえば、以前2千万Gをちょろまかそうとしていたわね……)
そのことを思い出して、アリアも大丈夫だとは断言できなかった。
「それで、アウグスト陛下はどのようにすればよいとお考えで?」
そのため仕方なく、アリアはまずアウグストの意向を確認しようとした。すると、彼はもっと多くの国に参加してもらって、共同で監視するべきではないかと提案した。そうすれば、一部の権力者の思惑で安易に使用できなくなると。
「例えば、使用するためには参加する国の3分の2以上の賛同を得なければならないとか?」
「確かにそれなら意見がまとまらずに、結果としてほとんど使用することはできなくなるでしょうね。だけど……それなら、初めから使えなくした方がいいと思いません?」
「その場合、新たな遺跡を発見した国が……つまり、今の華帝国のような存在が現れると、制止できなくなります。使えるようにはしつつ、安易に使えないようにするべきではないかと」
「……抑止力としては必要ということね」
このように意見を交わしながら、アリアとアウグストはより良い形を模索し続けた。そして、多くの国に参加してもらうか否かは華帝国との戦いに勝利したのちの課題とすることとして、まずは教皇との会談を提案した。
「多くの国に参加してもらうためには、どちらにしても正教会と魔国の関係が改善しないと話にならないかと。ですので、早々に一度会談を持たれてはいかがでしょうか?」
これにはアウグストも異存はなかった。
「よろしくお願いする」
そう短く答えると、アリアは年明けすぐにでも会談をセッティングすると約束した。
「あとは……」
兵器の管理のことについては一先ずここまでとして、アリアはこちらに向かってくる一行に目を向けた。港に接岸した船から降りてくる船員たち。華帝国の事情を聴くのであれば、もってこいの連中である。
「あれ?」
ただ……その中にひときわ異彩を放つ女性の姿があった。身なりからして位が高そうに見える。そして、彼女は出迎えた魔国の将校と何か言葉を交わした後に、数名の供を引き連れて、こちらへと歩いてきた。そして……
「わたしは、華帝国皇帝周明徳が孫、美玲と申します。降伏するにあたり、寛大な慈悲の心で我が国の将兵を正当に扱っていただきたく存じます」
魔国の兵士に囲まれているというのに、毅然とした態度でそう告げる姿に、アリアは関心を抱いた。
(しかも、皇女ということは……)
帝国の中枢に近い人物だ。それゆえに、何とか彼女から情報を引き出すことができないかとアリアは思うのだった。
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