第429話 遊び人は、久しぶりにガチで戦う
「……それで、何で俺が戦わなくちゃいけないんだ?」
「まあ……わたしもそう思わないわけではないけど……全てを丸く収めるにはこれが一番早いらしいから、協力してあげてくれる?」
ここは、魔国の都メジスアート市内にある闘技場。その通路を歩きながら、不満げなレオナルドを宥めながら先へと進む。魔王アウグストの話によると、ハルシオンとの融和策に反発しているピサヌローク将軍の内にあるわだかまりを解消させるのが目的らしいが……
「遅かったな!待ちくたびれたぞ!」
闘技場の舞台の上に立つのは、なぜか可愛らしい少女だった。
「これは……一体?」
そう思ってレオナルドはアリアを見るが、アリアも困惑した表情を浮かべて同じようにレオナルドを見た。すると、そこにアウグストとアンドリューが現れて……共に頭を下げた。
「実は……」
そう言って二人が語ったのは……ピサヌローク将軍が張り切り過ぎてぎっくり腰になってしまったので、代理を立てたという思いもよらぬ話だった。そして、少女の後方にある観客席には、その将軍らしき老人が周りの者に支えられるような恰好で姿を見せている。
「リリー、やっちまえ!母ちゃんの仇を討つんだ」
……そう声を張り上げながら。
「リリーちゃんっていうんですね。あの子は……」
見たところ、また10歳になるかならないかという所だろう。その小柄な体型とあどけない表情から、アリアはそう判断してアウグストに確認する。おそらくは、亡きサンドラの娘であろうという事情まで分かったが、本当に戦わせてもいいのかと。
すると、アウグストは言った。「見た目に騙されて、侮らない方がいい」と。
「彼女は我が国期待の天才です。いずれ成人すれば、亡き母親同様に魔王軍12将……いえ、もしかしたら空位になって久しい大将軍に就くことができるかもしれません。手加減などすれば、火傷をするのはレオナルド殿の方になるでしょう」
「ほう……それほどに強いのか」
今の物言いにカチンときたのか、それとも本当にその強さに興味を示したのかはわからない。……が、レオナルドは不敵に笑ってアウグストに訊き返す。「本当に手加減なしで行くが、それでもいいんだな」と。彼は頷いた。
「よし!それなら、久しぶりに本気出してくるわ!」
レオナルドはそう言って、舞台へ上がった。そして、開始を告げるゴングが鳴り、二人の戦いは始まった。
(まずは、お手並み拝見と……)
そう余裕ぶって、相手の出方を見ようとしていたレオナルドであったが、リリーが放つ無詠唱の攻撃魔法に度肝を抜かれた。【暴風魔法】に【氷結魔法】に【爆炎魔法】にと、次々と容赦なく最上級の攻撃を浴びせられ、たちまちかわすだけで精一杯になる。
(おいおい……嘘だろ?)
【飛空魔法】で辛うじて上空に逃れて、体勢を整えようとするもそこに来るのはレオナルドが得意とする【雷撃魔法】で……レオナルドは卑怯を承知で【転移魔法】を発動させて、一旦オランジバークへ退避した。
「どこだ!どこに行ったぁ!」
姿が見えなくなったレオナルドを探しているリリーを見て、アリアは何となく事情を察した。ズルいなあと思いつつも、口にはしない。それは、アウグストたちも同じであった。
そうしていると、再びレオナルドが現れた。リリーの後方に転移した彼は、彼女に向かって手をかざすと……得意の【雷撃魔法】をお見舞いした。
「あぎゃああああああ…………!」
流石にこれはかわし切れない。悲痛な叫び声を上げながら、彼女は白目をむいてその場に崩れ落ちた。
「リリぃー!!!!!」
観客席からピサヌローク将軍が顔を青くさせて叫んだが、ここで勝負あり。
「レオ!」
「わかってるって」
そして、レオナルドは倒れている少女に【治癒魔法】をかける。このまま死なれることがあれば、新たな遺恨の種にもなるし、何より後味が悪い。そうしていると……
「参りました!」
意識を回復するなり、リリーはそう言ってレオナルドに頭を下げた。その表情は憑き物が落ちたように清々しいものであったが……一方でズルをしての勝利のため、レオナルドの方はスッキリしない表情を見せていた。
だが、そんな彼の様子に構わずに、リリーは言った。「弟子にしてください」と。
「ええ……と、どうしたらいい?」
「認めてあげたら?……ピサヌローク将軍もそれでいいですわよね?」
「ああ、リリーの好きなようにさせて欲しい。認めてくれるのであれば、これまでの経緯は水に流して、ワシもあなた方に協力しよう」
ピサヌローク将軍からそこまで言われてしまえば、最早逃げ道はなかった。レオナルドはため息をつきつつも、この魔族の少女を弟子にすることを了承するのだった。
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