第12章 女商人は、導かれし愚か者どもに鉄槌を下す
第421話 異変は、突然に
ソビエト山脈の西側には、ロシール王国という国があった。人口はおよそ1千万人というから、ハルシオンやガリアには及ばないものの、このあたりではそれなりの規模である。
そんなロシール王国の上空に謎の飛行物体が現れたのは、この国の王女様の誕生日である12月5日の昼過ぎのことだった。国を挙げて祝賀行事を行っていた最中、首都モスルは至る所で激しい爆撃を受けたのだ。当然、上も下も大騒ぎになる。
「一体何が起こっておる!?あれはなんなんだ!」
「陛下!そのようなことを申している場合ではありません!早くお逃げください!」
「逃げる!?何を言っているのだ!今日は娘の……」
そう言いかけたところで、国王ピョートル3世は王宮を襲った爆撃によって吹き飛ばされて、たちまち物言わぬ肉片へと化した。そして、最高指導者を失った王国は、成す術もなく滅びの坂道を転がり落ちていく。
「もはや、この国はお終いだ!逃げろ!じゃないと、殺されちゃうぞ!」
それは誰の言葉なのかはわからない。ただ……国王一家がいた王宮のバルコニーが吹き飛んだのは多くの市民が目撃していて、未だ続く爆撃と相まって、その言葉が噓ではないことは誰もが理解した。
兵士たちが持ち場を離れて我先に逃走を図り始めると、目端の利く市民はそれに続いた。しかし、しばらくすると愚か者たちがこれ幸いに略奪、強姦を手あたり次第始めたことから、左程の時間が経たないうちに、ついさっきまで祝賀ムード一色だった町は、阿鼻叫喚の地獄へと化した。
「いやぁ!だれか!誰か助けてよ!」
「ま、待ってくれ!それは母の形見の指輪なんだ!返してくれ!」
「お母さん!目を開けてよ!ねえ、お母さん!」
そして、その地獄絵図は爆撃から5時間経っても続いており、今、華帝国の旗を掲げる侵略者を出迎えた。
「如何なさいますか、将軍」
そのあまりもの凄まじく見苦しい光景に、副官が眉を顰めて対処を確認するが……
「全員、殺せ」
「承知いたしました」
司令官である曹武淵将軍は、副官の問いかけに一片の慈悲を見せず、ただ短くそう答えた。すると、兵士たちはすぐさま行動に移して、この時点で残っていた市民を機関銃で掃討し始めた。
「ぎゃああああ!!!!!」
「た、助けて……ぐは!」
子供だろうが、女だろうか、老人だろうがならず者だろうが……一切関係ない。目にした者から次々と機械的に葬っていく。もちろん、抵抗を試みた者もそれなりに現れたが、この圧倒的な武力の前には無力であり、同じように物言わぬ骸へと化けて行った。
そして、その虐殺の光景は、やがて王宮に到着した曹将軍の目にも留まる。ここは、国王だったピョートル3世が爆死したバルコニーがあった場所であったが、見晴らしは良かった。
「とにかく、まずはおめでとうございます」
「ん?おお……お主は陳大人か。なにやら今回のことで儲けているらしいのう」
「はい。おかげさまで」
そう言って恭しく頭を下げる陳は、皇室である周家を長年支えてきた武器商人だ。当然、今回の戦争でも一枚も二枚も噛んでいる。
「それにしても、流石は将軍ですな。お手並みが実に鮮やか。……ご覧ください。あちらに本日めでたくも、16歳のお誕生日を迎えられたこの国の王女様が、股を開いて閣下をお待ちしてますぞ」
「王女?」
一体何の事だろうと思って陳が指をさした先を見ると、そこにはテーブルの上で裸のまま拘束されている少女の姿があった。但し、恥ずかしい場所は白いクリームのようなものが塗られていた。
「くっ!離せ!この無礼者が!わたしを誰だと思っている!」
その少女は必死になって拘束を解こうと足搔くが、その度にクリームが揺れてときどきピンク色の苺のような突起物が見えて、なお美味しく見える。
「あのクリームは、王女様の誕生日を祝うために用意されたケーキから取りました。ぜひ、ご賞味を」
「ほう……それはおいしそうだな」
曹はよだれを垂らして、一歩、また一歩、テーブルに近づいた。そして……
「うぐっ……」
まずはほっぺたに塗られたクリームを舐めて、そのまま唇を蹂躙した。少女はなおも藻掻くが……逃れることはできない。
「うう……なんで、なんでこんなことに……」
濃厚なファーストキスから解放された王女は、次に乳房にかぶりつかれて、大粒の涙をこぼして自分の運命を嘆いた。朝起きたときは、多くの人に祝われてとても幸せな一日の始まりだったのに、運命は残酷にも暗転したのだ。あの時側に居た父も母も、そして乳母のアーニャも、すでにこの世にはいない……。
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