第419話 魔王は、足元を見られて
「なに!?そのシンディとやらの貸し出し条件は、調査で正体が分かった遺物の所有権を全てルーメンス商会に帰属させろだと!」
バシリオからの報告を受けて、魔王アウグストの眉が上がった。それはいくら何でも足元を見過ぎだと不快感を示す。それは、側近のアンドリューも同じ意見で、厳しい言葉がバシリオに飛ぶ。
「バシリオ大使。遺跡は我が国の物で、しかも今回の調査はすでに発見済みの物を解析してもらうだけの話ですよね。それがどうして所有権の話になるのか。もちろん、その辺のお話はされているのですよね?」
「も、もちろんです」
「だったら、なぜこのようなフザケタ話を持ちかえってきたのですか?あなたはどちらの国の大使なのですか?」
「そ、それは、魔王陛下の大使にございます。しかし……」
「しかし?」
「アリア殿が言うには、対抗できる兵器を見つけたとしても、魔国が中立的な立場を取られるのであれば、調査に協力するメリットがないと」
そして、どこの国にも属さないルーメンス商会がそれらの兵器の所有権を保持することは、魔国にとっても悪い話ではないとバシリオは説明した。
「つまり、中立を決め込みたいのであれば、遺跡の調査依頼を許可しただけだと言えるわけだな」
「その通りです。もちろん、華帝国の連中には薄々気づかれるでしょうが……」
だからといって、国から独立して活動している以上、それを理由に盟約違反を声高に叫ぶには、少々無理があるのではとバシリオは言う。アウグストもそれならば問題ないかと思い始めた。
「だが、バシリオ大使。それはあくまでも、アリア殿がこれからも信頼足りえるお方であるということが前提条件ですよね。その……大丈夫なのですか?力を手に入れて人は変わるということもありますよ?」
アリアは先頃ハルシオンの女王に即位したと聞いている。以前あった際にはその人柄に触れたアンドリューであったが、あれから彼女を巡る周囲の状況は変わっているのだ。
(もし、兵器の矛先がこちらに向いたならば……)
それは裏切りと呼べるものだが、絶対にあり得ないと言い切ることはできない話だ。そのため、手放しでその提案を受け入れるわけにはいかなかった。
「それで、どうなのですか?あなたの目から見て、アリア殿はこれからも信頼できると思いますか?」
「わたし個人の意見を申し上げれば……信頼できると思います。ですが……それで国の行く末を左右する決断をなさるのですか?」
「それはちょっと荷が重いのだけど」と、バシリオは笑うが、全くもってその通りなので、アンドリューは不躾な質問をしたことを謝罪した。だが、そんな彼にバシリオは「それならば」と温めておいた提案を切り出した。
すなわち、ルーメンス商会の行動を監視するための人員を魔国の側から経営陣に送り込むことだ。
「ルーメンス商会は、どの国にも属さない中立的な存在ではありますが、その経営陣には我が魔国と北部同盟の双方から幾人かずつ役員に加わっておりますよね?」
「そうだな。そのような取り決めであったが……誰を送り出す?移籍に関する知識を持ち合わせ、なおかつ人族との融和に理解を持ち、俺を裏切らない人材が……」
アウグストは色々考えてみるが、この3つを満たすとなれば、中々人が思い浮かばない。すると、目の前にいるバシリオが「恐れながら……」と言って自分を指差した。
「ん?おまえがか?」
「はい。その条件にわたしならば適っていると思います。ですので、どうかお命じください。このバシリオ、粉骨砕身、魔国のために力を尽くしますので!」
バシリオはそう言って。力強く自分を推薦した。これこそが今日の話の肝。ルーナが経てたこの提案の終着点だった。……が、その願いは叶わない。
「バシリオ……おまえの気持ちはよくわかるぞ。恋人と一緒に少しでも居たい。それは俺とて同じだ。だがな……」
アウグストは続けて言う。「俺が我慢しているんだから、おまえも我慢しろ」と。
「大体、大使の仕事はどうするのだ。これも余人に任せることができない重要な仕事なんだが?」
「そ、それは、誰かほかの人に……」
「他の者がいるのなら、その者にルーメンス商会へ行ってもらうわ!」
結局、バシリオの願いは即断で却下された。すると、それを待っていたかのように今度はアンドリューが口を開いた。ひとり、心当たりがあると。
「陛下。このお役目は、ソルゲイ様にお命じになられてはいかがでしょうか」
「叔父上に?」
思わぬ名前が飛び出して、アウグストは考える。なるほど、確かに長年ローデヴェイクの領主として遺跡の管理をやってきたのだ。少なからず知識は持っている。それに……
「ソルゲイ様は心の底から反省なされております。このあたりで挽回の機会を与えるられるのが魔国の繁栄にとってよろしいかと」
アンドリューが言うように、本当に反省しているかまではわからないが、今、国が揺れている中で、王位継承権を剥奪されたとはいえ、いつまでも魔王の叔父にあたる王族を冷遇し続ければ、担ぎ出そうとする愚か者が出ないとも限らない。
「わかった。そうしよう」
アウグストは、その提案を認めたのだった。
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