第415話 女商人は、遺跡の中へ突入する

「あれ?」


 遺跡の中に足を踏み入れた途端、天井から光が差してきた。見上げてみると、何やら玉のようなものが埋め込まれていて、それが光を放っているようだ。さらに……


「ねえ……これって、この遺跡の地図?」


 しばらく行った先にエントランスのような広い空間が広がっていて、ご丁寧なことにその入り口にまるで案内板のように地図が置かれていた。しかも、床には色違いのラインまで引かれていて、おそらくだが、これをたどっていけばそれぞれの目的地にたどり着くだろうと予想できた。


「なんか……思っていたのと違うわね……」


 シンディもそのことを認めて、早速目の前に置かれた地図の確認に取り掛かった。古代文字で書かれているため、アリアらは読むことができないが、研究者である彼女にかかれば読解は左程難しい話ではない。そして、説明を始める。


「ここは、どうやら研究所のようね」


「研究所?前に言っていた核兵器とやらが保管されている倉庫とかじゃなくて?」


「残念ながら、そういうことね。何の研究をしていたのかはわからないけど……少なくとも、そんな物騒なモノはここにはないみたいよ」


 つまり、当てが外れたということだ。アリアの顔に落胆の色が浮かび上がった。だが、その一方でシンディの方は、知的好奇心を刺激されてワクワクしていた。だから、アリアを励ますように言った。


「まあ、折角なので色々見て回りましょうよ。ひょっとしたら、いいモノが見つかるかもしれないわよ」


 それは古代の財宝なのか、それとも未知の発明なのか。そんなことはわからないし、そもそもないかもしれない。ただ……ここまで苦労してやってきた以上、アリアも手ぶらでは帰りたくなかった。


「それで、まずどこから行くの?」


 できれば、宝物庫のような場所があれば、まずはそこに行きたいというアリアに、シンディはそのような場所は地図に記されていないとしてうえで、最初に「所長室」と書かれた場所を指差した。


「ここで一番の偉いさんがいた場所なら、ここで何をしていたのか、最終的に昔何が起こったのかわかると思うの。それを知ってから次の行き先を考えれば、効率的だと思わない?」


 それは決して的外れなことではない。ゆえに、アリアはシンディの提案を認めて、全員で所長室に向かうことにした。そして、やはりというか。その途中で攻撃を受けるといったようなことは起こらなかった。


「それじゃ、レオナルド君。解錠してくれる?」


 所長室の扉には、なぜかドアノブがなかった。本来は、何らかの方法で扉が自動的に開く仕組みなのだろうが、その手段が分からない以上、解錠魔法に頼るしかない。


「任せて」


 レオナルドは、右手をかざして呪文を唱える。すると効果があったのか、扉は右へゆっくりとスライドした。そして、真っ先に目に入ってきたのは……椅子に座る身なりの立派な骸骨の姿だった。


「この方が所長さんかな?」


「恐らくそうだと思うわ。何があったのか……日記のようなものがあればいいのだけど……」


 シンディは、所長の亡骸を椅子ごと押しのけて、ヒントになるモノを探し始めた。机の上にあるのはm遺言のようなもので、それは家族への愛を語っているに過ぎず、全く参考にならない。そのため、一つ一つ机などの引き出しや収納棚などを開けては、中のモノを取り出していく。


「……あった」


 ついに見つけたそれは、表紙部分に『研究日誌』と書かれていた。何冊か出てきたが、1冊だけ『3404.1.1~』とエンドの日付を入れていないモノがある。シンディはそれが最後の記録だと見て、中身を開いた。


「……ねえ、何が書いているの?」


 研究者としての血が騒いだのだろうか。一度読み始めると黙り込んで、いつまで経っても結果を話そうとしない彼女に、アリアはしびれを切らして訊ねた。すでに読み始めてから、30分以上は経過している。


 すると、シンディはようやく日誌から目を離して、ここで何を研究していたのかを説明した。


「端的に言うと、核兵器を使用できなくする装置を開発しようとしていたみたいね」


「使用できなくする?そんなことができるの?」


「ここに書いている内容からすると……ミニ実験では成功したとあるわね。ただ……本格的に実用化する前に戦争が始まって、ここの人たちも最後まで頑張ったみたいだけど……」


「結局、完成に至らなかった……ということですか」


「まあ、そういうことね。ここに籠ったけど、最後は食料が尽きて……みんな飢え死にしたそうよ」


 シンディは椅子に座っている亡骸を見て、ため息を吐いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る