第413話 女商人は、夫のセクハラ行為を𠮟りつける
「それじゃ、アデーラ。支援物資は、準備ができたらレオがアバーエフに運び込むから」
「レオナルド殿が?おひとりでですか?」
てっきり、秘密の抜け道があり、そのルートで運搬してくるのだろうと思っていたアデーラは首をかしげた。しかし、アリアは言う。転移魔法で運び込むと。
「転移魔法……ですか?いや……レオナルド殿がそれを使えるのは、この地に連れてこられたときに承知をしているのですが……」
それでも、量が半端ではないだけに、本当にできるのかと疑問に思うアデーラ。魔法カバンを使うとしても、それだけの容量がある物などこの帝国では見たことがないのだ。
すると、彼女の疑問にアリアは気づいたのだろう。微笑みながら、「倉庫を丸ごと転移させて輸送するから」と何でもないように答えを示した。
「そ、そんなことができるのですか!?」
「できるわよ。なんだったら、早速見せてあげようか?」
「い、いえ、それは結構ですが……それにしても、何でもありですね」
アデーラは顔を引きつらせて、今更ながらとんでもない人たちと関わってしまったと思った。そして、これ以上自分の常識が壊れないうちにと席を立つ。
「それでは、こちらの方はお任せください。必ずやこの手で帝国の混乱を収めて、陛下の覇業に力添えをさせていただきますので」
最後に彼女はそう言って、シレンコと共にレオナルドの転移魔法によってこの場から姿を消した。
「さて……」
アリアは隣の部屋に行き、そこで待っていたシンディとベドジフに今の話を伝えた。これで、アデーラはこの領を逆に守ってくれることになったと。
「そのうえで、改めてベドジフをこのユレチュカの領主に任じるわ。このハルシオン女王アリアの名においてね。もちろん……求められている役割は、わかっているわよね?」
「はい、もちろんでございます。何人たりとも、遺跡周辺には近づけさせません。このベドジフ、必ずや女王陛下の盾となってごらんに見せましょう」
遺跡に何があるのかは、ベドジフは知らない。しかし、それが何であろうが、アリアの邪魔はさせないようにするのが自分の務めだと彼は理解していた。そのためには、大量の謀反人を出した家内の立て直しをまずは行わなければならないが、アデーラの脅威がなくなった以上、時間的な余裕はあるのだ。左程難しい事ではない。
「それじゃ、任せたわよ」
「はい、お任せください」
胸を張ってそう誓ったベドジフに別れを告げて、アリアはシンディと戻ってきたレオナルドと共に、いよいよ遺跡に向かうことにした。北西へ約20キロ。飛行魔法でおよそ10分少々といった所だった。
「それじゃ、二人ともつかまって」
向かい風に負けないようにと障壁を張り、レオナルドは二人に言った。ただ……少しにやけて鼻の下を伸ばしているのがアリアは気に食わない。
「ねえ、レオ。まさかと思うけど……後ろから見えないと思って、シンディさんに変なことをしてないわよね?」
「え……?」
「だって、わたしよりも大きなものをお持ちですからね」
その言葉にレオナルドはギクリとする。今回の移動では、シンディが妊婦だということもあり、彼女がお姫様抱っこされて、アリアは背中の方からおぶさるような形でレオナルドにしがみついていたのだ。後ろにいるアリアが見えないと思ってよからぬことをやっていてもおかしくはない。例えば、さり気なくその大きな胸やおしりを触ったり……。
「そ、そんなことは……」
決してないと言おうとしたところで、シンディはアリアの耳元で何をされたのか囁いた。それは、アリアの予想通りというもので……
「レオ!アンタ、やっぱり触っていたのね!しかも、魔法を使って、シャツのボタンも外してその中を覗き見ようとしたんですって!!」
次の瞬間、ビンタが炸裂して、レオナルドの頬に紅葉型の赤いマークを作らせた。
「ご、ごめんよ!だって、プルンプルン目の前で揺れるんだよ。つい魔がさしたというか……」
「ついじゃないわよ!シンディさんは、オズワルドさんの奥さんなのに、なにチョッカイ出しているのよ!それに、なに?プルンプルンって。それは……わたしへのあてつけかしら?悪かったわね、ち・い・さ・く・て!」
そして、すっかり機嫌を損ねたアリアは、北に見える大きな山を指差して、「あの山の向こうにあるから」と、遺跡にはまずレオナルドだけ行くように命じた。
「ここまできたら、もう道案内は不要よね?着いたらここに迎えに来て。いいわね?」
反論は認めない。そんな強気の態度で、未練がましそうにシンディのおっぱいをチラ見しているレオナルドを今度は蹴飛ばして、強引に出立させた。
「ホントにもう……スケベなんだから!」
カンカンブリブリに怒りながら、アリアは愚痴を零していると、そこにベドジフが通りかかった。まだここにいることに疑問を感じた彼は……だが、事情をアリアから聞いて何とも言えない顔をした。
「どうしたの?」
「あの……遺跡はあちらの山ではなくて、その3つほど左にある山の向こうにありますよ」
「え……?」
今更ながらだが、感情の赴くままに適当に指をさしてしまったことに気がついて、アリアはしまったと思った。だが、この場には彼に追いつける手段を持ち合わせている者はいない。
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