第407話 女商人は、遺跡に乗り込む算段をする
「ち、地図ですか?」
「そうよ。ここにあることは、あなたの奥さんから聞いているから、隠しても無駄よ」
「隠しても……って、そんなつもりがあるわけないじゃないですか」
突然アポなしで盟主室にやってきたアリアに、マルスは困惑したようにして応対すると、これ以上は関わりたくはないと言わんばかりに、引き出しにしまっていた地図をさっさとアリアに手渡した。
しかし……迷惑なことにアリアはシンディと共に応接セットに陣取り、地図を広げた。
「あ、あの……このあと、お客さんが来ることになっていまして……」
だから、マルスは遠回しに「お引き取りいただきたい」と伝えた。だが、アリアは無慈悲にもキャンセルしろという。
「わたしは、ハルシオン王国の女王よ。わたし以上に重要なお客様って誰かしら?ねえ、マルス?」
そんな人がいるなら教えてくれと言われては、マルスは返答に窮した。入植者たちの代表が来ることになっているのだが……アリアに比べれば、どちらが重要なのかは明らかだ。
そして、この件はそれで片付いたと見るや、今度は「ぼさっとしていないで、お茶くらいは出したらどうなのよ」とアリアに要求され、さらにはシンディにも「茶菓子も忘れずに」と付け足されてしまった。
「はぁ……わかりましたよ。少々お待ちを……」
そんな二人逆らうことができなかったマルスは、要求に応じるために肩を落としながら部屋から出て行った。
「さて……」
マルスがいなくなり、アリアは話を切り出した。
「一番近い所は……ここよね」
そこは、アルカ帝国の北西部に位置する場所。北部同盟の支配領域からはかなりかけ離れていた。
「レオの飛行魔法を使えば、イヴァン皇帝の勢力圏を安全に抜けることはできるけど……」
いずれにしても、現地を治める領主とその領民との軋轢を避けるために、乗り込むとして何らか策を講じる必要がある。例えば、変装とか……。
「それについては、たぶん大丈夫よ。ここの領主は、亡き夫の従兄に当たる方だから、わたしが間に立てば、無下には扱われないと思うわ」
亡き夫……クサヴェル・ジャフールとは形だけの結婚であったが、その事実はあまり公にはなっていない。だから、きっと領主も親族として接してくれるはずだとシンディは言った。
だが、そう言う彼女の言葉に、アリアの顔は引きつった。
「ん?なにかおかしいこと言ったかしら?」
「だって……そのお腹じゃ、まずいことにならない?」
アリアが視線を向けたシンディのお腹は膨らんでいる。妊娠8か月で、父親はオズワルドだ。
「形だけの結婚だってことは聞いているけど、亡くなってすぐに他の男の人の子を宿すとなれば、印象が悪いのでは?特に親戚なら余計に……」
「そこは……クサヴェルの子だと誤魔化して……」
「いやいや、そのクサヴェルさんが亡くなったのって1年前でしょ?計算、合わないわよね?」
流石に死んだ人間は、生きた人間を妊娠させることはできない。ゆえに、シンディを現地領主に引き合わせるのは余り得策ではないように思われた。無論、仲介はしてもらうが、それは手紙でということにしたいとアリアは言った。
「だけど、わたしが行かないと兵器の扱い方、わからないわよね?」
「ええ、そうよ。だからもちろん同行してもらうけど……変装はしてもらうからね」
仮に身バレしたとしても、レオナルドがいれば何とかなるように思えなくはないが、なるべくならアリアは穏便に済ませたいと思っていた。
「あと、兵器は持ち出すの?魔法カバンの容量、足りるかな?」
「アリアさん、流石にそれはやめた方がいいわ。万一、暴走なんてしたら帝都の二の舞よ」
そもそも、取り外せることができるかどうかわかったものじゃない。調査に時間だってかかるかもしれない。ゆえに、シンディは遺跡一帯を購入して管理することを提案した。最低限の兵士を置いて、使う時はレオナルドさんの転移魔法で移動すればいいとして。
「ただ……そうなると、やはり現地の領主との関係は重要よね」
上辺だけの関係ではなく、強固な信頼関係。それを結ぶためには、最初に嘘をついてはダメなような気がする。
アリアはシンディのお腹をもう一度見た。真実を告げた上で交渉するか、それとも誤魔化すのか。……思案するのだった。
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