第406話 女商人は、核兵器を知る

「これは……戦車ですね」


「戦車?」


 取扱説明書に目を通しているシンディの口から飛び出した聞き慣れない言葉に、アリアは思わず訊き返してしまった。


 すると、彼女は説明する。これは外装を鉄で覆った箱のような車両で、防御力に優れていること、さらに正面にある筒からは、着弾すると爆発する砲弾と呼ばれるものが発射される仕組みになっていると。


 それは、アウグストからの手紙に書かれていた内容と一致していた。ただ……シンディはその上で付け足した。これは旧式タイプのモノだと。


「このタイプの戦車の弱点は足元。例えば、地面を爆破してひっくり返したら、もう何もできないわ。こんな重い物、戦場で起こすことなんてできないでしょ?」


「確かにそうね」


「あと、鉄に覆われて防御力は高いけど……それ以上の火力をぶつけられたら防ぐことなんてできないわ。だから、絶対的な兵器とは言えない」


 つまり、鉄を貫く威力の攻撃であれば、打ち破ることはできるということだ。そして、ユーグやレオナルドといった抜きに出た魔法使いの力を結集すれば、できない話ではないだろうとシンディは言った。


(それなら……)


 さほど心配しなくてもよいのではないか。アリアはふとそう思いかけた。しかし……


「でもね、今の話はあくまでも『旧式タイプ』の話よ。記録に残る最新式というやつは、その弱点を克服しているわ」


 表装を物理・魔法両面で防御魔法を重ねがけして、ひっくり返っても自力で起き上がれるシステムを搭載した戦車。古代文明が滅亡する直前の大国では、当たり前のように使用されていたという。


「そ、そんなものがあったら……」


「打つ手はないわね。あなたのお身内に偉大な魔法使いがいるのは聞いていたけど……」


 ユーグやレオナルドが、例え最大奥義なる魔法を駆使したしても、傷一つつけることはないだろうとシンディは言った。そのうえで、これらの古代文明の兵器に対抗するためには、アリアが言うようにこちらも同じことをしなければ勝てないことも……。


「連中がどこまでのレベルの兵器を取り揃えて、使う覚悟があるのかはわからないけど……最悪の事態を想定しておくのなら、持っておく必要があると思うものが一つあるわ」


「それは一体……」


「核兵器よ」


 核兵器——。それがどのような兵器なのかは、アリアは知らない。……が、シンディの表情は、それが只ならぬものであることを教えてくれた。


「核兵器はね……古代文明の世界で大国と呼ばれる国々が世界を思うように牛耳るために保有したと伝わっているわ。使用すれば、一瞬で国一つが丸ごと消滅するというのだから、ホントとんでもない代物よ」


 そして、古代文明の世界は、この兵器を互いに使用しあったことで滅亡を迎えたとも言った。始めは大国の一つが小国を従わせようと脅しで使用をチラつかせたが、それに他の大国が反発。意地の張り合いの末に……最後は引っ込みがつかなくなって使用してしまったと。


「だから、本当ならこんなものには関わらない方がいいのよ。持てば使いたくなるのが人のさがだしね。だけど……もし、その華帝国とやらが持っているのなら、こちらも持っておいた方がいいと思う。それなら、容易に使ってこないと思うから」


 つまり、そのような物騒な物を持つのは、あくまでも相手を牽制するため。どこかの段階で話し合いによって双方の『核兵器』を破棄することを目指すのが望ましい結末だとアリアは理解した。


「でも……その核兵器だけど、どうやって手に入れればいいの?もしかして、シンディさん。あなた、それも再現しているの?」


 古代文明のアイテムをいくつも興味本位で再現している話はルーナから聞いているアリア。ゆえに、念のためと彼女に確認した。だが……首は左右に振られた。


「作ろうと思ったけどね、今のこの世界には材料が枯渇して不可能だったのよ。だから、手に入れるためには、古代人の遺した遺跡に行ってみるしかないわね」


「遺跡?」


「ただ……それがどこにあるのかはわからないわ。うちの実家、つまり消滅した皇宮の地下にあったのだけど……」


 しかしそれは、謎の爆発によってすでにないと、シンディは自虐的に言った。そして、他には知らないから、まずは探すところから始めなければならないとも。


「遺跡ねぇ……」


 そう言えばと、アリアはふと思い出した。魔国からその場所を記す地図がマルスの手に渡されたと、アンジェラから聞いていたことを。


「それについては、少し心当たりがあるから聞いてみるわ」


 アリアはそう言って、早速マルスの元に向かうことにしたのだった。

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