第403話 女商人は、総督に圧力をかける
「女王陛下!誠に申し訳ありませんでしたぁ!どうか、どうか、お許しをぉ……」
「ちょ、ちょっと……コペルティーニ公爵、これは一体……?」
ブラス商会で、カルボネラ商会への対応をクロエたちと相談していた矢先、前触れもなく突然訪れたコペルティーニ公爵にいきなり土下座で謝罪されて、アリアは困惑した。無論、私掠免許状を発行したことを謝っているのだとは思ったが、このタイミングでこうなるとは予想していなかっただけに……。
「すべては……すべては、カルボネラ商会の小娘に騙されたワシの不徳が原因。もし、ご納得いただけないのであれば……」
コペルティーニ公爵は、懐から短剣を取り出して首元に当てて言った。「我が首を差し上げる」と。
「わ、わかりましたから!だから、どうかそのような物騒なものはしまってください!!」
アリアは慌てて、今にも死んで詫びようとする公爵を止めた。そして、明言する。今回のことは、ハルシオン王国への敵対行動ではないことを。
「オルセイヤ王国は、これからも我がハルシオンの重要な友好国の一つです。そのことをジョアン陛下にもお伝えくださいね」
「ありがとうございます!この御恩は決して……」
「忘れないのであれば、今すぐレベッカさんを釈放してもらえないかしら?」
「は……はい!?」
ホッとしたのもつかの間。アリアから飛び出した全く思ってもみなかった要求に、コペルティーニ公爵は目を丸くして驚いた。
「あ、あの……それはどういうことで?」
アリアに他意がなかったことを証明するために、すでにレベッカを国家反逆容疑などで牢に収監している。首を刎ねて持って来いというのならわかるが……それを釈放とはどういうことなのか。もしかしたら、聞き間違えたのではないかと、公爵はアリアを見た。
だが、その問いかけにクロエが代わりに答えた。
「総督閣下。……恐れながら、それを閣下が知る必要はないかと思います」
「なっ!?」
横からしゃしゃり出てきた一介の女商人の言葉に、コペルティーニ公爵は不快感を示した。しかし、そんな部下の無礼な行動にアリアは何も言わなかった。ゆえに、公爵も冷静になって考えた。無論、左程難しく考えるでもなく結論はすぐに出る。
即ち、先程のアリアの言葉は、ハルシオンの女王陛下のお言葉ということだ。確かにそれならば、ポトスの総督にしか過ぎないコペルティーニ公爵が訊ね直していい話ではなかった。だだ……
「申し訳ございません。そのご要望にはお応えするわけには参りません」
コペルティーニ公爵は、ハルシオンの女王陛下のお言葉であることを重々承知したうえで、アリアの要求を拒んだ。アリアの眉がピクリと動く。
「理由をお聞きしても?」
「実は……彼女には、わたしへの詐欺容疑の他に、我がオルセイヤ王国への反逆容疑がかかっているのですよ」
でっちあげであるが、新聞によって、すでにその情報はポトス中に知れ渡っていた。それゆえに、一度振り上げたコブシを下ろすことができないのと同じで、今更それをなかったことにはできないと、コペルティーニ公爵は事情を説明した。
「も、もちろん、レベッカ嬢は捜査の結果、嫌疑不十分ということにして釈放は致します。しかしながら……容疑が容疑だけに、慎重に捜査を行った結果ということにしなければならないのです」
さもなくば、ハルシオン女王の内政干渉に屈したと世間からは見られるだろうと。
「それは……まずいわね」
そもそも、今、乗っ取りに動くことができないのは、ポトス市民の感情を逆なでないようにするため、女王の権力を使って総督府に圧力を加えたという誤解を受けないためなのだ。それでは、本末転倒というしかない。
「釈放が可能になるのは?」
「少なくとも、3か月は頂きたいかと……」
今日は9月27日だから、コペルティーニ公爵の言葉からすると、釈放は12月の末か来年1月頃になるということだ。いや、少なくともと言ったからには、もしかしたらもっとかかるかもしれない。
「仕方ないわね……それでは、よろしくお願いね」
「承知いたしました」
しかし、そのことが分かっていたとしても、これ以上の圧力を加えるわけにはいかない。アリアは了承するしか他に手がなかった。
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