第273話 陰謀を企てし者たちは、闇夜に集う

 結婚式が無事に終了した夜。アリアたちがオランジバークに帰ったのを見計らって、陰謀を知る者たちが王宮の一室に集まった。国王フランツ2世、マグナレーナ王妃、ハラボー内大臣、ロサリオ筆頭枢機卿、テレジオ枢機卿、そして、大賢者ユーグ・アンベールの6名だ。


「……それじゃあ、今のところは二人にばれていないのね?」


 会議の冒頭で、マグナレーナがハラボーとユーグに確認した。二人は結婚式において、何かとアリアたちの世話をしていたため、様子がおかしければ気づくことができる立場にあるが……


「特にお変わりはなかったですな。そうでしょ?ユーグ殿」


「ええ、ハラボー殿の仰る通りです。つつがなく、披露宴に臨まれましたし……」


 二人はこうして明確に否定した。そのことに、マグナレーナはホッと胸を撫で下ろした。


「よかったわ……わたしだって、あの二人の記憶を進んで消したいとは思っていなかったから……」


 それはあくまで最終手段であったが、もし気づかれてしまえば、高い確率で忘却魔法を使わなければならないとは覚悟していたのだ。なぜなら、アリアの性格上、気づいてしまえば、大いに悩み、苦しむからだ。


「しかし、王妃陛下。正教会としては全世界に公表しましたので、殿下の耳にもいずれは届くのではありませんか?」


 その辺りの対応はどうするのかと、ロサリオが訊ねた。マグナレーナは、クスクス笑いながら答えた。


「あら、ロサリオ殿。ご存じではないのかしら?エデンでは、ランスという名が比較的ポピュラーな名であることを。だから、アリアちゃんたちには、カミラの子じゃないどこかのランスのことだと伝えるわ」


 そうすれば、ランスが旅立つ16年後までは隠し通すことができるはず。マグナレーナは自信たっぷりに説明した。そして、聡明なアリアの事だから、その頃にはこの国の女王として、今回の決断を感情ではなく、冷徹に判断して受け入れることができるだろうと。


「そんなにうまく行くかな……?」


 そのとき、マグナレーナの説明を聞いていたフランツが急に疑念の声を上げた。


「どういうこと?」


 マグナレーナは批判がましく、異を唱えた夫を見た。娘のことを信じられないのかと言って。しかし……


「そうじゃないよ。確かに16年もすれば、あの子は成長して今回のことを受け入れることはできるだろうさ。だけどね、君も今言ったようにあの子は賢いし、それに……あのレオナルドが付いているんだろ?やっぱり、バレちゃうんじゃないか?」


 フランツは娘とその婿の能力を信じるからこそ、楽観視できないのではないかと指摘した。何も知らない者が聞けば、『親ばか』も過ぎるということになるだろうが、一概にそうとは言い切れないとことがある。何しろ、二人そろって親の七光りなど必要ない者たちなのだ。


「確かに……その心配はやはりありますね。でしたら……」


 二人のこれからのことを思えば、やはりお腹の子が勇者であるという記憶などは消しておいた方がいいのかもしれない。ユーグは、腹を決めて国王と王妃に決断するように改めて進言した。


 しかし……そのときだった。


「申し上げます!例の賊のことで、第1連隊長のカルバン大佐が大至急お目通りを願っておりますが?」


 部屋の外から侍従官の告げる声が聞こえた。「いかがしましょうか」と。


「賊のことで?」


「はい、お通ししてもよろしいでしょうか?」


 何だろうと思っているフランツに、侍従官はどうするのか訊ねてきた。


「後ほど私室で訊く故、待つように伝えよ」


 ここに居る顔ぶれを思い出して、フランツは決断してそのように命じた。内容によっては、ロサリオ達正教会の者たちに聞かせてはまずい情報なのかもしれないからだ。そして、侍従官は「かしこまりました」とだけ返して部屋から遠ざかって行ったが……


「なりません!陛下は只今会議中で……」


「たわけ!それどころではないわ!!」


 先程の侍従官と……カルバン大佐の言い争っている声が次第に大きくなりながら近づいてくる。


「陛下!一大事でございますぞ!!」


 そして、ついに扉は開かれて、彼は目の前に現れた。フランツは不機嫌さを隠さずに言った。「待つようにと言ったはずだが?」と。


 だが、彼は構わず報告した。


「先日捕らえた賊ですが……皆、魔族であったことが判明しました!奴らの狙いは、王太子殿下を攫って魔王の妃に据える事!しかも、魔王軍12将のゴメスが関わっていると。大至急、殿下の警護を強化せねばなりませぬぞ!!」


 さもなくば、こうしている間にも第2、第3の襲撃が行われる可能性があると。フランツは青ざめた。


「ハラボー!アリアたちは今、どこにいる!?」


「オランジバークのご自宅に……」


「陛下!わたしが迎えに行きます!!」


「頼むぞ!ユーグ!!」


 会議はこうして強制終了されて、慌ただしく事態は動き出す。レオナルドの実力を信じていないわけではないが、魔王軍12将が動いているとなれば、万一のこともないわけではない。ユーグが転移魔法で消えた後、フランツは娘の無事を祈るのだった。

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