第184話 遊び人は、暗殺を未遂に終わらせる
「なんと!エレノアが……」
「そうなのよ。ポトスに帰ったら、訪ねて来てて……」
目の前で、国王フランツ2世とアリアがぎこちなく会話を交わす中、レオナルドはそのアリアの隣に座って……空気になっていた。なぜなら、危険を察知したフランツが意図的に話を振らないように仕向けているからだ。
(やっぱり、警戒されているよな……)
何しろ、まだ婚約の件は伝えていないのに、隣に座っているのだ。もちろん、アリアが強く望み、マグナレーナも同意したから座っているのだが、娘を持つ父親としては、身構えるのは無理のない話なのかもしれない。
「ちょっと、あなた……」
堪りかねて、さっきからフランツの隣に座るマグナレーナが何度か小声で嗜めているが、それでも無視して、アリアとの会話を強引に進めている。アリアも苦笑いを浮かべているが、フランツは頑なにレオナルドの方を見ようとはしない。
だから、ここは大人しく、出されたお茶を飲みながら時間が過ぎるのを待つしかないとレオナルドはティーカップを手に取って、一口飲んだ。
(ん……?)
レオナルドは、違和感を覚えた。胃の奥から焼けるような何かを……。念のため、解毒効果のある魔法を発動するとともに、コップの中の紅茶にも魔法をかけて、成分の解析に取り掛かる。
「それでね、パパ。お母さんをレオの転移魔法でここに連れてこようと思うんだ。会ってくれる?」
「もちろんだよ。要するに、そこの『従者』の魔法を使うんだね。だから、説明するために隣に座らせたのかぁ。ごめんね、アリアの彼氏かと思って心配しちゃった!」
「やだぁ!パパ、何言ってるの?レオは従者でも彼氏でもなくて、婚約者なのに!!」
「今更何言ってるのよ」と言うアリア。今更どころか、初めて伝える話なのだが、ここが勝負だと思って押し通す。フランツの表情が固まった。
「アリア……」
「言っとくけど、反対してもダメだからね」
縋るように涙目になりながら言葉を零した父親に、アリアは容赦することなく自分の意思をはっきりと伝えた。さらに、「どうしても反対するなら、家出するからね」とも告げる。
「マグナレーナ……」
「もう、さっきから何なのよ!見苦しいったらありゃしない」
今度は頼みとする妻に縋るも見放される。「20年も放置してたんだから、あなたに言う資格はないでしょ」とも言われて。
「ぐぬぬぬぬ……!!!!!」
ついに、逃げ道を失ってフランツの顔が悔しさで歪む。そして、喉の渇きを覚えて、ティーカップへ手を伸ばそうとする。レオナルドを睨みつけながら。しかし……
「飲んじゃダメだ!毒だ!!」
レオナルドは、慌てて声を上げた。
「ど、毒だと!?」
フランツは声を上げて驚くが、どうしていいかわからずに、手に持ったティーカップの中に入っている紅茶を見たまま固まってしまった。そのとき、部屋の片隅から舌打ちが聞こえ、待機していたはずの侍女が動き出した。
「!」
侍女の手がスカートの中のフトモモへと伸びようとしていた。その動きから、銃かナイフの投擲か、何かしらの物理的な攻撃があると瞬時に予測したレオナルドは、フランツとマグナレーナ、そして、アリアの周囲を取り囲むように、障壁を張った。
バン!バン!バン!
3発の銃弾が侍女の持つ拳銃から発射された。しかし、銃弾は見えない壁に阻まれて、途中で止まり、いずれも絨毯に転がった。
「なっ!?」
フランツも驚いたが、侍女の衝撃はそれ以上だった。訳が分からずに、残りの銃弾も放とうとするが……。
「馬鹿だねぇ。見れば通用しないことくらいわかるだろ?諦めて逃げればいいのに」
呆れたようにため息をついたレオナルドに背後を突かれて……魔法をかけられてしまう。
「それで、誰に頼まれた?」
目が虚ろとなった侍女にレオナルドは訊ねた。
「ハイ。セリーヌ様デス」
「セリーヌ?」
それは誰だと思い、レオナルドはフランツを見た。何しろ、レオナルドもアリアも、この国の貴族のことは疎いのだ。
「パパ?」
しかし、フランツは固まったまま動かない。暗殺されかかったことよりも、この娘の婚約者を名乗る男は一体何者だと思いながら。
「……セリーヌは、ベルナールの妻よ。ホント、往生際が悪いんだから……」
落ちた銃弾を拾いながら、マグナレーナが代わって説明した。そして……夫であるフランツの背中を叩いた。
「しっかりしなさい!ここが正念場よ!!」
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