第5章 女商人は、全ての元凶たる叔父に鉄槌を下す

第163話 女商人は、新町長にいきなりセクハラされる

「ボン、当選おめでとう」


 開票が終わり、ボンの当選が確定したのを受けて、アリアは開票会場にいたボンを見つけて祝福の言葉を送った。


「ボン?」


 しかし、ボンからは何の返事もない。椅子に座ったまま、目を大きく見開いて、口を半開きにして、固まっていた。


「おーい」


 もしかして、気絶しているのかと思って、アリアは彼の目の前で手を振ってみた。一応瞬きをしたので、気絶しているわけではないことを知った……次の瞬間、ボンの手がアリアのお尻をなでなでした。


 バチン!!


「なにすんのよ!!」


 アリアの平手打ちがボンの頬にヒットして、ボンは椅子から転げ落ちた。


「いてて……よかった。夢じゃない……。当選した。当選したぞぉ!!」


「きゃっ!」


 頬に真っ赤な紅葉マークを作ったままで、ボンは飛び上がり、アリアに抱き着いた。


「ちょ……ボン!相手を間違えてるわよ。こういうことは、イザベラさんと……」


 そう言いながら、必死で引き離そうとするアリア。嬉しいのはわかるが、流石にこれはいかがなものかと思いながら。そのとき、ボンの後ろに二つの人影が現れた。


「町長就任初日、セクハラで殉職か……。在任期間わずか5分。きっと、世界最短記録だろうなぁ。……で、どうします?イザベラさん。俺なら骨の1本も残さず灰にできるけど?」


「あら、それは困りますわ、レオナルドさん。焼く前にまず骨を粉々にしないと。わたしの鬱憤が晴らせないじゃないですか」


 その声に反応して、ギギギというような音が聞こえてきそうなくらいに、恐る恐る首を回したボンは、その二つの人影が地獄からのお迎えに見えた。そして、自らの現状を確認した。その腕の中には小柄なアリアがいることを。


「ごめんなざい!!」


 ボンは、真っ青な顔で出口に向かって駆け出した。しかし……


「残念でした!転移魔法、使えるんだよね♪」


「あ、ああ……」


 逃げ切れずに、ボンは恐怖のあまり崩れ落ちた。そして、同時に後ろから襟首を掴まれた。


「さあ、お仕置きのお時間ですよ♪アリアさん、近くに丁度いいお部屋ありませんか?」


 ニコニコしながらそう告げるイザベラ。その目は笑っていない。浮気を疑っている目だ。


「あ、あっちの部屋がいいと思うわ」


 あくまで自分は浮気相手ではなく、セクハラの被害者なのだと強調して、アリアは空いている会議室を指差した。そこは、壁が赤系の壁紙を貼っているから、多少、血飛沫が飛び散ったとしても問題ないと考えて。


「ありがとうございます。それでは、あとで町長室に伺いますね」


 通常なら、このあと町長室で引継ぎを行うはずだったのだが、ひょっとしたら殉職した新町長の葬儀と出直し選挙の相談をされるかもしれないなと思いながら、アリアはボンを見送った。


「アリア、大丈夫だったかい?さあ、こっちに来て。アイツに触られたところを消毒しないと……」


 一方、レオナルドはというと、そう言って丁寧に【浄化魔法】をアリアの体にかけた。


「これでよし」


 特に変わった様子は感じられなかったが、そのことを言えば何となく厄介なことになりそうな予感がして、アリアは話題を転換した。


「と、ところでだけど……いつ出発するの?確か、航路の途中にあるバリアス島に転移して、そこで合流するんだったわよね?」


 レオナルドの転移魔法は、行ったことのある場所にしか発動しないが、バリアス島には子供の頃に叔父であるクレトと行ったことがあるという。


「アイシャちゃんたちが出発するのが明後日だから、その5日後……つまり、今日から数えて7日後にバリアス島に転移するよ」


 言い換えれば、それまではこちらに居られるというレオナルド。満を持して、以前企てた温泉旅行を提案しようとするが……


「それなら、明日、明後日はポトスで仕事をして、そのあとこっちに帰ってきて商会設立の準備に取り掛かれるわね」


 村長退任にあたり、アリアは塩田の権利を購入したが、退職金代わりに造船所と研究所、港を含むその周辺の土地の譲渡をすべての候補者に認めさせていた。そこで従事するシーロたちの使用権も含めて。


「勇者討伐のためには、まだまだお金が必要だわ!さあ、これから忙しくなるわよ!!」


 いや、それならなおの事、その前に温泉旅行に……と言いかけて、レオナルドは諦めた。【勇者討伐】というスイッチが入った以上、彼女を翻意させることはできないと、ため息をつきながら。

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