第159話 王女様は、偶然にも陰謀の真相を説明する

「ねえ、アリアさん。その勇者にあなたをこの大陸に連れて行くように指示を出したのが、実はベルナールだということをご存じで?」


「へ?」


 アリアは、キョトンとした顔でアイシャを見る。そして、どういうことなのかと訊ねる。アイシャは、かかったと思いながら、用意した筋書きを説明した。


「わたしの手の者が調べたところによると、どうやらベルナール王子は、あなたが陛下の実子であるということを数年以上前から知っていたらしいのよ。そして、あなたがこちらに向かうことになった少し前に、彼の側近が勇者と面会しているわ」


 それは、まったくの作り話のつもりであった。まさか本当にそのとおりだったとは、この時アイシャは知る由もない。


「ベルナール側から勇者への依頼は、あなたの殺害。但し、ルクレティアで殺しちゃうと色々と面倒だから、あと腐れなくこっちに連れてきて、殺してもらうつもりだったようね」


「で、でも、わたしは殺されていないわよ。そうよ!わたしは騙されないわよ。それ、アイシャさんの作り話でしょ?」


 そんな手で騙そうだなんて、とアリアは非難するようにアイシャを見た。しかし、言い当てられてもアイシャは動じることなく、話を続けた。


「アリアさんが殺されなかったのは、全くの偶然。オランジバークよりギルドに、部族との交易に従事する商人の募集が掛けられていたことを知った勇者が、小遣い稼ぎに勝手にやったことのようね。知ってるんでしょ?ルクレティアでお葬式をした話は?」


「う……そうだけど……」


 ハラボーの話では、あの糞勇者が婚約者の振りをして図々しくも弔辞を述べたそうだ。思い出すだけでも腹ただしいと、アリアは思った。


「あれはね、死んだことにしないと、雇い主であるベルナール王子に言い訳がたたないからなのよ。それがバレたのか、あるいは口封じなのか、それはわからないけど、しばらくして、勇者パーティーは何者かの襲撃を受けたわ。オスナとマフガフは無残に殺されて、勇者とその恋人は行方不明……」


「え?」


 オスナとサンタナは、あのとき共に船に乗っていた勇者の一味だ。どちらも、イヤらしい目つきで、自分の体を嘗め回すように見ていたことを思い出す。それにしても、やはり他に女がいたとは……。


 アリアの中で、勇者への復讐の思いがさらに強くなった。


 ただ、ここまで話を聞く限り、どうやら知らぬ顔をできるような話ではないようだと、アリアも認識した。ゆえに、アイシャに問う。「自分はどうすればよいのか」と。


 すると、アイシャは待ってましたと言わんばかりに、ニッコリと笑って言った。


「王位を継承するかどうかは別として、一先ず、ハルシオン王国に来られて、陛下にお会い頂けないでしょうか?」


 王妃の手紙にある通り、「実の娘に会えないままなのは可哀そうなので」とアイシャは付け加えた。


「でも……会いに行ったって、父は眠ったままなのでしょ?果たして、何の意味があるのか……」


「そんなことはありませんわ。もしかしたら、奇跡が起こって目を覚まされるかもしれませんよ?」


 そんな都合のいい話があるわけないでしょ、と思うアリア。だが、そのとき考え込んでいるレオナルドの姿が見えた。


「どうしたの?レオ」


「……いや、俺も父親とは顔を会わしたことがないから、どうしているのかな、って思っただけだ」


 その言葉に、アイシャもハラボーは同情の念を抱くが、アリアは何かが引っ掛かった。ただ、この場で言わないのであれば、何かしら理由があるのだろう。


(それならば……)


「レオ。どうしたらいいかな?」


 アリアは、あえてレオナルドに決定権を委ねた。おそらく、この状況を打開する妙案があるだろうと思って。


「俺は、行った方がいいんじゃないかなと思う。ただ、おそらくだけど、ベルナール派はアイシャちゃんたちが帰国する場面も確認するだろうから、そこにアリアはいるべきではないと思う」


「じゃあ、どうするの?」


「俺が同行して、ハルシオンに到着したら、迎えに来るよ。転移魔法で」


 なるほどな、とアリアは思う。それならば、敵の目も欺けるし、ハルシオンにも日帰りで通うことが可能だ。


「ハラボー先生。アイシャちゃんも、この案でどうかしら?それならば、父のお見舞いに顔を出すことは可能よ」


「しかし、それでは……」


 ハラボーは、ド派手にお国入りして、後継者として明確に立場を表明することを望み、なお難色を示す。しかし……


「それでいいのではないでしょうか?ハラボー伯爵。今はベルナール派の力が強すぎますので、あまり目立つと暗殺の標的となる可能性もありますし……。後継者のことは、追々とでも……」


 あくまで兄の即位を目指すアイシャは、アリアの意見に同調した。こうなっては、立場上、ハラボーは反対するわけにはいかない。


「承知しました。それで構いませんので、なるべく早くお越しください」


 渋々ながら、提案に応じるのであった。

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