第134話 女商人は、炎石研究を知る

「炎石ですか……。確かに、ムーラン帝国では喜ばれますね。ポトスで買えば、小指の先ほどの大きさで200Gしますし……。それで、アリアさんはいくらで売ろうと?」


「本土と同じ100Gで考えているけど、どうかしら?」


「そうですね……。その価格でも売れるでしょうけど、できれば、80G辺りになりませんか?人類平和に協力するためとして」


「あら、人類平和には協力するつもりで、お安くしたつもりなのですが。まあ、エラルドさんがそこまでいうのなら、90Gでいかがでしょう?」


「90Gですか……。できれば、85Gになりませんか?これでも十分利益は出るかと……」


「そうですね。わたしだけならそれでもいいのですけど、うちも従業員がいますので、88G……」


 ブラス商会の会頭室で繰り広げられるアリアとエラルドのせめぎ合い。同席しているレオナルドもハラボーも口を出せず、ただ見守るしかなかった。


 あの後、川を遡ってレイブン山に入ったアリアとレオナルドは、山肌の至る所から露出している炎石の鉱脈を確認。その足で、ラモン族のレージー族長を訪ねて、年間10万Gの30年契約で採掘権を獲得した。


 安すぎるように思えたが、ラモン族には例えそこに炎石があるとわかっていても採掘する労働力、技術力がなく、合わせて輸送する術も持ち合わせていないのだ。年間10万Gを獲得できるだけでも、彼らにとっては十分なのかもしれない。


 ちなみに、温泉にはまだ行けてはいなかった。


「ふぅ……やっとまとまったわ」


「おつかれさま。……で、間を取って87Gか。結局、どっちが勝ったんだ?」


「もちろん、わたしよ」


 1Gだけど、わたしの主張する額の方に近いでしょ、とアリアは笑って言った。……とは言っても、エラルドの方もにこやかな顔をしているので、もしかすると、『1Gの勝利』を譲られただけなのかもしれないが。


「しかし、この石って、鍛冶にだけしか使われないのか?」


「え?」


「だって、火の中に入れると千数百度を超える高熱を生み出すんだろ?もっと他に使い道はないのかな?」


 例えば、魔族どもをやっつける高熱を発する兵器など作れないかと、レオナルドは言った。


「……そうね。そんなこと今まで考えたことはないけど、誰か考えている人はいるかもしれないわね。でも、できたら兵器じゃなくて、みんなの生活に役立つものを研究していれば、より嬉しいけど……。エラルドさん、何か心当たりはありませんか?」


 突然話を振られて、帰る準備をしていたエラルドの手が止まった。


「エラルドさん?」


 思いっきり、心当たりがある。何せ、友人がその研究をしているからだ。だが、まだ完成したと聞いていないのに言っていいのか?


 しかし、この人にかけると決めた以上、隠すのは不義理だ。エラルドは、意を決して話した。


「実は、わたしの友人で、ポトス魔術大学の研究員をやっている男がいるのですが、そいつがそれに近い研究を行っています」


「魔術大学?」


 どこかで聞いたことがあると思って、アリアは記憶を辿った。確か、レベッカの母校であると言っていたような……。


「それはどのような研究なのですか?」


「確か、水蒸気を使って装置を動かす仕組みを研究していたかと。その水蒸気を発生させるために必要な熱エネルギーとして、炎石を試してみると先日も相談を受けていくつか渡したのですが……上手く行ったかはわかりません」


 何せ、彼是1か月近くは会っていないのだ。エラルドは申し訳なさそうにそう答えたが、アリアは俄然興味を持った。


「エラルドさん。その方にお会いしたいのですが、セッティングをお願いできないでしょうか?」


「え?それは構いませんけど……。ただ、会えるかどうかはわかりませんよ。少し、人見知りな所があるので……」


「それでも、お話はしていただけませんか?」


 アリアの強引なお願いに、エラルドはタジタジとなった。そうなると、もう頷くよりほかに選択肢はない。あとはどう友人を説得するのか、頭を悩ませるのだった。

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