第130話 遊び人は、なし崩し的に事を進めようとするが……
「じゃあ、ここからは馬で行こうか」
ラモン族の村。目立たないように変装しているアリアに、レオナルドはそう告げた。
目的地である混浴温泉までは、大体1時間というところ。探すふりをしながらそこまで行き、「あっ!こんな所に温泉が。折角だから入ろうよ♡」と、なし崩し的に事を進めるというのがレオナルドの作戦である。
もちろん、アリアはそんなレオナルドの思惑に気づいていない。今日も真面目に交易品となる物を探すため、馬に跨った。
「それで、今日はどこに向かうの?」
「ここから、西に1時間走ったところに、アバテという村があるらしい。取り合えず、今日はそこを目指そうと思うんだけど」
「わかったわ」
何の疑いもなくそう答えるアリア。
そのアバテ村に温泉があるとは、この時点で言う必要はない。すべては着いてからのお楽しみということだ。二人は馬に鞭を入れた。
「風、気持ちいいねぇ」
呑気に語り掛けるレオナルド。しかし、アリアの反応は芳しくない。一応、「そうね」とは返してくれるものの、明らかに空返事。村を出てから30分足らずであるが、レオナルドはこの日何度目かのため息をまたつくのだった。
(しまったな……策を弄しすぎたかな……)
明らかに硬いアリアの表情を見て、自らの失敗を悟るレオナルド。
実は、いきなり温泉に連れて行こうとすれば、アリアに感づかれるのではと思って、これまでの2度の視察は真剣に行われたのだ。だが、めぼしいものは見つかっていない。
(……まあ、そこで見つかれば、温泉旅行にはつながらないから、わざとない所を選んで連れて行ったわけだが……)
だが、そのことがアリアをさらに追い詰め、焦りを生んでいることは容易に想像がついた。成果が出ていないことで、おそらくは、職務を代行してくれているハラボーやアンジェラたちに申し訳ないとでも思っているのだろうと。
「もう……アリア。偶には肩の力を抜こうよ。そんなに焦った顔してたら、見つかる物も見つからないよ」
レオナルドは、心配そうにそう言葉を掛ける。しかし、反応はない。どうやら、状況はとても深刻のようだ。
このままじゃいけないと思い、ついにレオナルドは行動に出た。【転移魔法】を唱えて、アリアの馬に移ると、いきなり後ろから抱き着いたのだ。
「えっ!?」
突然伝わるレオナルドの温もりに、アリアは困惑した。
「ちょっ!なにやってんのよ、レオ!?」
顔を真っ赤にしながら声を上げるアリア。何が起こったのか、理解が追い付かないでいると……
「どう?肩の力、抜けた?」
レオナルドに耳元で囁かれた。
「え……?」
そういえば、さっきまであれほど交易品のことを考えていたのに、今はレオナルドのことで一杯で、それどころではない。
「アリアの悪い癖だよ。一生懸命になる余りに周りが見えなくなるのは。そんなことじゃ、長生きできないよ。俺を残して先に逝く気?」
「いや……そんなことは決してないわよ。普通に一緒に長生きしたいし……」
「それなら、もっとゆっくりしようよ。ほら、天気もいいし、景色もきれいだよ」
そう言って、レオナルドは辺りを見渡すように言う。確かにそこには、オレンジバークやポトス、さらにいえば、故郷であるルクレティアでは見られない自然豊かな大地が広がっている。そんな中に、幾筋かの煙も……。
(煙?)
アリアの中で、何かが引っ掛かった。
「そういえば、アリア。ボンから聞いたんだけど、この先に温泉が……」
「レオ!ごめんなさい。それどころじゃないわ。火事よ!ほら、あそこに煙が上がっているわ!!」
「えっ!?」
レオナルドはアリアが差す方角を見た。確かにそこには煙が幾筋か上がっている。だが、あの場所は……。
「レオ。悪いんだけど、自分の馬に戻ってくれないかしら?急ぐから」
「わ、わかった」
レオナルドは転移魔法を唱えて、自分の馬に戻った。そして、ため息交じりでつぶやく。「急いでいったところで、何もできないだろうが……」と。
「何か言った?」
「……いや、何も?」
だが、それを言ったところでアリアは止まらないだろう。また悪い癖が出たと思いつつ、レオナルドは黙って追走した。
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